リタイアして以来丸10年、私は巨樹に魅せられ、日本各地にある巨樹巨木を、これまでに約400本を探訪してきました。そして11月7日、ついに日本の巨樹ナンバーワンの「蒲生(かもう)のクス」を訪ねることができました。それは、鹿児島県姶良市(あいらし)蒲生町(かもうちょう)にある蒲生八幡神社の御神木でした。
第1印象は、「えっ、これが日本で1番の巨樹ですか?」という感じでした。それは、確かに堂々としたたたずまいと、蔦や苔で幹の上部まで覆われたその姿は古木の風格満点でしたが、その整いすぎた全体の姿の美しさに、大きさ・すごさ・威圧感を感じないのだ。
巨樹・古木に関する著書のある牧野和春氏は、「古木の物語・・・巨樹信仰と日本人の暮らし・・・」の中に、「私は巨樹を見るに第1級資格となる3原則なるものを用意してみた。即ち、風貌・風格・風情、これが巨樹に値する3原則である」と記している。また、「巨樹と日本人・・・異形の魅力を尋ねて・・・」の中に「数百年、数千年の歳月、同じ場所で根を張り、枝を広げ、梢を伸ばしてきた巨樹は不思議なまでの生命力で人々を圧倒する。長い間の風雪に耐え獲得した異形の姿は神とも魔物とも映り、信仰の対象となっているものも多い。」とも言っている。
この点でいえば、「蒲生のクス」は風貌において、これまで見てきた巨樹、「来宮神社の大クス(日本第2位の巨樹)」、「太田の大トチノキ(日本第1位のトチノキ)」、「石徹白の大杉(日本第5位のスギ)」などに比べて端整すぎるのだ。驚くほどの異形の姿をしていないのだ。確かに根元の方には、ごつごつした凹凸があるのだが、いまひとつおドロおドロさに欠けているのだ。決して日本一の巨樹に対してケチをつける気は毛頭ないのだが、あまりにもその立ち姿が美しいのだ。とても1500年も生きてきた魔物とは映らないからだ。これは贅沢な思いだろうか? それでもやはり間違いなく素晴らしい巨木である。 しばし立ち止まりその端整な姿の巨樹より大いなる「気」を存分にいただいた。じかに巨樹の幹に触れられないのが残念でした。
「蒲生のクス」は、昭和63年(1988)、環境庁の巨樹・巨木林調査によって、日本一の巨樹としてランキングされた。幹の根元の内部には、直径4.5m(約8畳敷き)の空洞があるというが、目立たなく、現在はその穴を木の扉が設けられ、人が入れないようになっていた。
木の脇の説明板によれば、保安4年(1123)、蒲生院の領主 蒲生氏が豊後国宇佐八幡宮を勧請してこの地に正八幡宮(蒲生八幡神社)を建立。その時既に 「蒲生のクス」は神木として祀られていたという。又伝説では、和気清麿が宇佐八幡の神託を奏上し大隅に流されたときに、蒲生を訪れて手にした杖を大地に刺したところ、それが根付き大きく成長したものが「蒲生のクス」だという。
私の好きな作家の一人である 司馬遼太郎氏が 「街道をゆく 三 」の「肥薩のみち」の中で「サムライ会社」の抄で蒲生の町のことを記しているが、八幡神社へ行っているにもかかわらず、この巨木 「蒲生のクス」については一言も触れていないのが不思議だ。この大きな木の姿が目に入らないはずがないのに!!
「蒲生のクス」 国指定特別天然記念物
樹高 30.0m 幹回り 24.2m 根回り 33,6m
推定樹齢 1500年
所在地 鹿児島県姶良市蒲生町上久徳 2259?1
巨樹探訪」熱中人