IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

わいせつ物陳列罪と国外犯、インターネット

わいせつ物陳列罪と国外犯、インターネット

1 日本国刑法のわいせつ物陳列罪は、国内犯処罰規定である。

刑法(国内犯)

第1条  この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

2  日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。(すべての者の国外犯)

第2条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。

一  削除

二  第77条から第79条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪

三  第81条(外患誘致)、第82条(外患援助)、第87条(未遂罪)及び第88条(予備及び陰謀)の罪

四  第148条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪

五  第154条(詔書偽造等)、第155条(公文書偽造等)、第157条(公正証書原本不実記載等)、第158条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)の罪

六  第162条(有価証券偽造等)及び第163条(偽造有価証券行使等)の罪

七  第163条の2から第163条の5まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪

八  第164条から第166条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第164条第2項、第165条第2項及び第166条第2項の罪の未遂罪

 

2 国内犯か否かの判定基準は、判例によると、構成要件該当事実の全部ないし一部が国内において存在すれば足りるとされている(大阪地裁平成11年2月23日判決・大阪地裁平成11年3月19日判決、「サイバー・ポルノの刑事規制」永井善之著232頁以下)。

 大阪地裁平成11年3月19日判決


一般に、我が国の刑法の場所的適用範囲については、犯罪構成要件の実行行為の一部が日本国内で行われ、あるいは犯罪構成要件の一部である結果が日本国内で発生した場合には、我が国の刑法典を適用しうると解すべきところ、インターネット通信においては、誰でもダウンロードすることを可能とするデータを伴うホームページの開設者が自己のパソコンからそのダウンロード用のデータをプロバイダーにあてて送信すれば、たとえそれが海外のプロバイダーに対して向けられたものであっても、瞬時にそのプロバイダーのサーバーコンピューターに記憶、蔵置され、その時点からは、日本国内からでも、右データに容易にアクセスしてダウンロードすることが可能となるものであり、本件では、被告人が、日本国内からアメリカ合衆国国内に事務所をおくプロバイダーであるユーエス・インターネットの管理するサーバーコンピューターに会員用画像データを送信して記憶、蔵置させているが、右会員用画像データに対しては、会員となってIDとパスワードを取得しさえすれば、日本国内からでも容易にアクセスし得、右会員用画像を閲覧することができるようになっていた上、ユーエス・インターネットに開設された会員用画像データを含む会員用ホームページは、日本国内のプロバイダーに開設された本件ホームページの会員用ページとして開設されたもので、その内容は日本語で構成され、本件ホームページから直接移動できるようにリンクされており、その会員も本件ホームページで募集していたものであるから、右会員用画像データは、当初から、専ら日本国内の者が閲覧することが予定され、しかも、それが容易に可能となる措置も講じられていたものということができ、実際にも右会員用画像データにアクセスしてこれを閲覧した者の殆どは日本国内の者であったことは、被告人自身も認めているところである。

以上に鑑みると、本件において、被告人が、海外プロバイダーであるユーエス・インターネットのサーバーコンピューターに会員用のわいせつ画像データを送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させた行為は、たとえ同コンピューターのディスクアレイの所在場所が日本国外であったとしても、それ自体として刑法一七五条が保護法益とする我が国の健全な性秩序ないし性風俗等を侵害する現実的、具体的危険性を有する行為であって、わいせつ図画公然陳列罪の実行行為の重要部分に他ならないといえる。したがって、被告人が右のような行為を日本国内において行ったものである以上、本件については刑法一七五条を適用することができる。

3 わいせつ物の頒布ないし陳列という結果は、日本国内のPCにデーターをダウンロードするという事実ないしダウンロードしたデーターを再現するという事実により充足されている。

4 とすれば、理論的には、外国において外国に設置されているサーバー内にわいせつデーターをアップロードすることにより、日本国刑法に触れることとなる。

刑法(わいせつ物頒布等)

第175条

 わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

 

5 4記載の海外における海外サーバーへのわいせつデーターのアップロード行為について日本の刑法のわいせつ物公然陳列罪により処罰できるのか否かについて、学説上は肯定説、否定説があり、現在まで、摘発事例及び裁判例はないようである(日本からアップロードした摘発事例や裁判例はある)。

6 弁護士実務として、上記についての問い合わせを受けた場合の回答はいかにすべきなのか。

イ 刑法理論的には可罰行為と理解できる。

ロ しかし、現在までの摘発事例及び裁判例はないようである。

ハ 摘発は、国と国との裁判権の問題や国境を越えた自由の問題という国際問題にもなりかねないのみならず、警察等の人的、物的設備から摘発が抑制されていると理解可能。

ニ 弁護士として、なんとも回答のしょうがない!! 上記イ、ロ及びハを述べることしかできない。

7 上記のようなサービス提供への関与と罪

イ 上記のように国外における国外サーバーへのアップロード自体、理論的には日本国刑法175条に該当するとした場合、そのようなサービスを提供しているという事情を承知のうえで、メンテナンス行為、顧客管理その他の行為をすることは、刑法175条の幇助行為に該当し、これも理論的には可罰的行為となることとなる。

ロ う~~む。

                               

刑法(幇助)

第六十二条  正犯を幇助した者は、従犯とする。

2  従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

(従犯減軽)

第六十三条  従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

ハ 大阪の奥村弁護士のML投稿によれば、「実務的には、全部外国でやっても、日本で観客を募る行為があれば刑法175条を適用しているようです」ということである。

 「幇助行為自体が、日本国内に存在すれば当該幇助行為については摘発する」ということであれば、捜査機関の摘発方針は、それなりに一貫性はあるか?

ニ 確かに、「幇助行為自体が、日本国内に存在すれば摘発する」ということであれば、日本国内において法益侵害行為を助長ないし増幅させる行為があるのだから、日本の捜査機関として摘発は当然か。

 これだけに止まるのならば、国境を越えた国際上の問題には発展しないか?

 「正犯は摘発しないが、幇助犯は摘発する!!」

 一国の刑事司法の抑制による、従犯のみ独立処罰!!

 一見、矛盾するような形ではあるが、「一国の刑事司法の限界とその抑制 」という観点から、是認できるか?

 どこかの国にあった「死刑宣告!!」の事例とは、逆の発想である。

ホ 国外のわいせつ物陳列サイトの紹介とリンク行為についても、上記のような実務的基準の適用が可能か。

8 アダルトサイト運営者の実務

 アダルトサイトを米国のサーバーをレンタルして運営している業者らは、CDロムに焼き付けたデーターを米国まで飛行機に乗って自ら運搬しているようである。

 「日本から、外国に設置されているサーバー内にわいせつデーターをアップロードすることにより、日本国刑法に触れる」こととなり、またそのような行為をすれば警察の摘発を受けることとなるからである。

 自ら米国内に行き、米国内でサーバーにデーターをアップロードしても、現在のところ、日本の警察は摘発しないようであるからである。

 アダルトサイト運営による収益からすれば米国へ行く飛行機代等の交通費はわずかだそうだ。

 

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