IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

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  目  次

立法の動向-情報窃盗、不正指令電磁的記録、迷惑メール・児童ポルノ・有害サイト規制法など

一 情報窃盗

1 従来の刑法の財産概念には「情報」は含まれず、情報窃盗は不可罰である。

2 個人情報窃盗(Identity Theft)

イ 英国1998年データー保護法55条

 個人情報を管理者の同意なく、入手、流出、販売行為などを処罰

ロ 国連経済社会理事会決議(2004年)

 個人情報窃盗について、国内法制の見直しや国際協力の推進などを提唱

3 日本

 日本でも個人情報保護法の改正が議論されているという。

 (法曹NO657より)

 しかし、個人情報保護法は大風呂敷の法であるがためか社会に無用な混乱を起こしている。

 こんな状態で、刑罰規定を新設すればますます混乱する。

 「従来の財産概念と情報という概念の異同」と「守られるべき情報とは何か」を緻密に議論される必要がある。

 人が生きる、人々が社会生活をおくるということは各種の情報の交換と共有であったはず。

 緻密な議論と整理なく「個人情報の保護」という言葉を一人歩きさせることの是非を検討する必要がある。

二 不正指令電磁的記録(コンピューターウィルス)の作成、供用など

1 2008年1月現在、「コンピューターウィルスの作成、供用など」は、それ自体を処罰する法律はない。

2 法務省は、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」のなかで、 刑法の中に、「不正指令電磁的記録作成罪等」を新設しようとしているが、この法案は未だ成立していない。

 上記法律案は、犯罪を共謀しただけで処罰しようとする共謀罪の新設も含まれているため、多方面からの反対意見が強いためである。

 不正指令電磁的記録

 人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる不正な指令......を与える電磁的記録

 不正指令電磁的記録作成の罪

 不正指令電磁的記録を人の電子計算機において実行の用に供する目的で作成する行為

 不正指令電磁的記録取得の罪

 不正指令電磁的記録を人の電子計算機において実行の用に供する目的で取得する行為

 不正指令電磁的記録保管の罪

 不正指令電磁的記録を人の電子計算機において実行の用に供する目的で保管する行為

 不正指令電磁的記録供用の罪

 不正指令電磁的記録を人の電子計算機において実行の用に供する行為

3 既存法令での処罰

 これらの不正指令電磁的記録の供用行為は、既存法令では、刑法233条、同234条の偽計・威力業務妨害罪や刑法第234条の2の電子計算機損壊等業務妨害罪又は、場合により著作権法違反の罪での検挙、処罰が考えられ、そのような形での検挙の例があるようである。

(信用毀損及び業務妨害)

刑法233条

 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)

刑法234条

 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

(電子計算機損壊等業務妨害)

刑法234条の2

 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 上記刑法改正案は、既存のこれらの法令での処罰のみでは不十分であり(上記犯罪の場合、業務の妨害を受けたという被害者の特定と業務妨害の事実の立証が必要となる)、コンピューターウィルスそれ自体の、作成、取得、保管、供用行為を処罰しようとするものである。

3 しかし、供用行為の処罰は理解できるものの、作成、保管行為等をも処罰の対象とすることについては異論、反対意見もある。趣旨は、供用罪のみで足りるのではないかという意見である。

五 有害情報フィルタリング義務化

 有害情報フィルタリング義務化...有害サイト規制法成立

 犯罪や自殺に結びつく可能性のあるネット上の有害情報から青少年を保護することを目的とした、いわゆる「有害サイト規制法」が6月11日、参議院本会議で可決し、成立した。

 同法では、携帯電話事業者やパソコンメーカーに対して、有害情報へのアクセスを遮断する"フィルタリングサービス"を提供することを義務づける。

しかし、日本新聞協会やマイクロソフトなどネット事業者5社が「憲法21条が保障する表現の自由を侵す可能性がある」として反対声明を発していることなどに配慮し、「事業者等が行う有害情報の判断」「フィルタリングの基準設定等」に国は干渉しないなど、運用上の留意点に関する5項目にわたる付帯決議も可決した。

 マイクロソフトなどとともに規制法案に反対してきた楽天は、法成立を受けてコメントを発表している。同社は、法律の運用によっては、国の関与により表現の自由の侵害に結びつくおそれがあると見ている。

 そのため、参議院本会議で可決された、運用上の留意点に関する5項目の付帯決議についても、法案の運用や将来の改正の際にも当初の趣旨が適切に実現されていくことを強く求めている。

http://japan.cnet.com/news/media/story/
0,2000056023,20375085,00.htm?tag=nl

三 迷惑メール

イ 「全面禁止に」法改正案を国会提出

1 「全面禁止に」法改正案を国会提出(2008/2/29日22時51分配信 毎日新聞)

2 総務省は29日、増加する迷惑メールに対応するために、受信者の事前同意を得ていない広告・宣伝メール(出会い系サイトやアダルト関連を含む)の送信を全面的に禁止し、海外発の迷惑メールも適用対象とした「特定電子メール送信適正化法(迷惑メール法)」改正案を国会に提出した。

3 違反業者への罰金額の上限も、従来の「100万円」から「3000万円」に引き上げる。総務省は、改正案を今国会で成立させ、年内の施行を目指す。

4 従来法では、受信者が再送信を拒否しない限り、迷惑メールは「違法」とされず、業者がメールを送り続けることができた。

 迷惑メールは、コンピューターソフトで無差別大量に配信されることが多いが、受信者が拒否メールを送ると、逆に業者に「受け手が存在する有効なアドレス」と察知され不都合となるため、迷惑メールは事実上、放置状態となっていた。

5 また、迷惑メールは、パソコン向けで9割以上、携帯電話向けで約半分が海外発だが、従来法では「海外発」を「違法」と認定できるかどうかが不明確だった。

6 改正案はこれら2点の改善が柱。

 海外発迷惑メール対策では、総務省が迷惑メール送信業者のメールアドレスなど情報を海外政府に提供し、取り締まりを依頼できる規定を設ける。

 ただ、法改正により迷惑メールが実際に減少するかどうかは、海外の政府当局の協力にかかっているといえる。迷惑メールを法律で禁止していない国もあることから、効果に疑問を唱える声もある。【尾村洋介】

ロ 迷惑メール法改正案のポイント

1 受信者の事前同意を得ていない広告・宣伝メールの送信を全面的に禁止

2 法人に対する罰金の上限を「100万円」から「3000万円」に引き上げ

3 悪質な迷惑メール配信をブロックできる権限をネット接続事業者に付与

4 海外発の迷惑メールも適用対象

5 海外送信業者などに迷惑メール送信を委託した国内業者も行政処分の対象に 

(最終更新:2月29日22時51分)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080229-00000161-mai-pol

ハ 迷惑メール:発信者に禁固9年 米国で厳罰化 米バージニア州最高裁で2月29日(米国時間)、大量の迷惑メールを発信した男が、禁固9年の刑を受けることが確定した。発信者に対する刑罰としては、これまでで最も厳しい。日本や欧州の取締機関にも影響を与え、厳罰化の動きが強まりそうだ。 この男は03年に、1日で1万通を超える迷惑メールの発信を繰り返した。同州では、大量(1日に1万以上)の場合は最長5年の刑を科せるように法改正しており、これが初の適用例となった。男は3件の罪に問われ、合計で9年の刑を受けた。 発信者が、これより重い刑を受けたこともあるが、迷惑メール自体は軽犯罪で、訴訟妨害罪などを一緒に適用された結果、重くなったというのが実態。発信行為そのものに対する刑としては、今回が最も厳しいという。 男は一審、二審で有罪となり、州最高裁に上告したが棄却され、刑が確定した。「迷惑メールは広告で、ビジネス活動」と主張。それを禁じる州法は憲法違反などと訴えていた http://mainichi.jp/life/electronics/news/
20080303org00m300021000c.html

四 児童ポルノ所持

 児童ポルノ、所持だけでも「処罰」...与党が法改正方針

3月9日3時5分配信 読売新聞

 自民、公明両党は、児童ポルノの画像などのはんらんに歯止めをかけるため、児童ポルノを販売目的でなく、「単純所持」するだけでも禁じることとし、罰則の対象とする方向で児童買春・児童ポルノ禁止法を改正する方針を固めた。

 改正案は議員立法で、今国会中にも提出する方針だ。インターネットなどを通じて児童ポルノ事件の被害者が急増していることや、国際的に日本の対応が出遅れていることが背景にある。

 単純所持とは、販売や提供の目的でなく、画像や写真などを個人で集めたり、CDやDVDなどの記録媒体に保存したりすることを想定している。インターネット上での公開は海外からでも閲覧できるため、日本からの画像流出が問題視されている。

 この問題で、米国のシーファー駐日大使は11日にも鳩山法相と会い、児童ポルノの単純所持の禁止措置を日本が導入するよう求める。法務省によると、主要8か国(G8)の中で、児童ポルノの単純所持が禁止されていないのは日本とロシアだけだという。

 内外の情勢を受け、自民党は7日、法務部会の中に新設した「児童ポルノ禁止法見直しに関する小委員会」(森山真弓委員長)の初会合を開き、単純所持を禁止し、罰則を設ける議論を進めることを決めた。公明党も昨年12月に同様のプロジェクトチームを設置して法律の見直しを検討してきた。同法は超党派の議員立法で成立したため、自公両党は今回も超党派による改正案提出を目指す。

 児童買春・児童ポルノ禁止法は99年に成立。当時、単純所持について、罰則なしの禁止規定の盛り込みが検討されたが、プライバシー権の侵害につながるなど、様々な反対があり、見送られた。法務省によると、児童ポルノに関する事件の起訴数は99年は25件だったが、03年は214件、06年は585件と急増している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080308-00000060-yom-pol

 

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