IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

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  目  次

個別論点・Shareの作動放置行為の評価

一 Shareの作動放置行為の評価・・・・(未完成)

1 Shareを起動させたPCの電源をonにしたまま放置した場合、どのような事態が生じ、また、どのような法的評価を受けるのか。

2 アップロードフォルダとダウンロードフォルダについて、同一フォルダを指定した場合に、特に問題となるようである。
  垂れ流し状態が発現するのか。

二 本件について、著作権法の送信可能化行為をしたということでの検挙であれば別だが、頒布行為自体の検挙であれば、いわゆる「おとり捜査」が関連する場合もあることから、「おとり捜査の適法性」を検討しておく。

イ 最高裁平成16年7月12日決定(刑集58巻5号333頁)

 おとり捜査は、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものであるが、少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該\犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。

ロ 前田雅英首都東京大学法学部教授の見解(同教授のHPより)

(http://home.h07.itscom.net/maedam/arts.htm)
 最決平成16年7月12日の示した必要性・相当性判断
 最高裁が提示した判断の手がかりは、①少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは許容されるという3点である。
  ①は、犯罪促進による法益侵害の少なさと、薬物犯罪という法定刑の重い犯罪ということを示し、②はおとり捜査にとって特徴的な必要性の点を示し、③はすでに犯意が形成されて危険性が高く嫌疑も存在していることを求めていると思われる。
 本件は、①薬物事犯であり、②麻薬取締官において,捜査協力者からの情報によっても,被告人の住居や大麻樹脂の隠匿場所等を把握することができず,他の捜査手法によって証拠を収集し,被告人を検挙することが困難な状況にあり,③一方,被告人は既に大麻樹脂の有償譲渡を企図して買手を求めていたのであるから,麻薬取締官が,取引の場所を準備し,被告人に対し買い受ける意向を示し,取引の場に大麻樹脂を持参するよう仕向けたとしても,おとり捜査として適法というべきであるとした判断は、合理性があると思われる。
ハ Shareを使用した本件の場合、薬物犯罪ではないものの、上記最高裁の判決の論理からすれば、仮に「おとり捜査」を用いた検挙であったとしても、最高裁は捜査の適法性を肯定する可能性が大と考えられる。薬物犯罪と同様、「他の捜査手法によっては証拠を収集し,被告人を検挙することが困難な状況」が認められるからである。
ニ 従って、インターネットを利用したネット犯罪の場合、今後も「おとり捜査」が利用されると考えるのが無難である。 
  

 

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