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9999-27ゲームアイテム

一 ゲームアイテムと現金取引


ゲームアイテムの現金取引、法未整備で新たな被害も
産経新聞 12月12日(日)19時32分配信

 オンラインゲームに不正アクセスしたとして、コンピュータープログラマーの男ら2人が、不正アクセス禁止法違反容疑で神奈川県警に逮捕された。
 事件の摘発で、ゲーム内では価値があるとされ、仮想通貨で取引されているキャラクターが使うアイテムが現実世界の通貨で取引されていた実態が浮かび上がった。
 男らは不正入手した他人のアイテムを転売して現金を手にしていたが、ゲームをめぐる法律は未整備なのが実情となっている。(太田明広、黒田悠希)

 急成長産業に潜む罠
 日本オンラインゲーム協会(東京)によると、平成16年のゲームのプレーヤーは延べ約2千万人で売り上げは約580億円だったが、21年には約8500万人、約1300億円と急成長を遂げている。同年のゲーム運営会社は118社で、ゲーム数は570タイトルに上っている。

 今回の事件の舞台となったのは、「リネージュ2」というオンラインゲーム。
ゲーム内に登場するキャラクターは対戦相手との戦いを重ねて経験値を高めることで、ゲームを有利に進めるための剣や弓矢、盾などのアイテムを手に入れパワーアップ。プレーヤーは、さらに強大な対戦相手との戦いを楽しむことができることで人気を集めている。

 多くのプレーヤーがゲームを楽しむ裏で、逮捕された川崎市川崎区小田のコンピュータープログラマー、西村優(29)と東京都足立区青井の医療事務員、田中歌織(39)の両容疑者は、インターネット上にプレーヤーのIDとパスワードを不正に入手するわなを仕掛けていた。

 西村容疑者らはリネージュ2の公式サイトを偽装したサイトを開設し、「BOT」(ボット)と呼ばれるプログラムツールをインターネット上で無料配布していた。本来なら、プレーヤーがBOTを手に入れれば、ゲーム内でキャラクターの経験値を自動的に高めてくれて、寝ている間でもキャラクターは剣などの武器を身につけてくれる便利なツールとされている。

 しかし、西村容疑者らがネット上で無料配布したBOTにはウイルスが仕組まれていた。プレーヤーがBOTをダウンロードすると、コンピューターウイルスに感染し、プレーヤーがゲームで使用しているIDとパスワードが自動的に西村容疑者らに送信されていた。

 現金化が目的
 このIDとパスワードを使って他人の名義でゲームに入り込み、西村容疑者らはゲーム内で他人のキャラクターが所持するアイテムを奪って現実の通貨で売り払っていた。
調べに対して、西村容疑者らは「現金化することが目的だった」と供述、数カ月で約100万円の利益を上げていたとみられる。

 アイテムは仮想のゲーム内通貨で取引されているが、一部では現実の通貨でも取引されている。
現実通貨での取引は「リアル・マネー・トレード」(RMT)と呼ばれ、ゲーム内で流通する仮想通貨やキャラクターが使用するアイテムなどを現金で取引するRMT業者のサイトは数多い。

 多額の現金を持っていれば大量のアイテムの購入が可能で、キャラクターの戦闘力を増すことができるため、ゲーム内におけるプレーヤー間の公平さを確保できないとして、ほとんどのゲーム運営会社が使用規約でRMTを禁止している。

 こうした点を問題視している神奈川県警は、西村容疑者らによる不正転売によりゲームの秩序が乱され、運営会社の業務に支障が生じたとして、偽計業務妨害容疑での立件へ向け最終的な詰めの捜査を進めている。
同容疑で立件されれば、全国初適用となる。

 ユーザーの匿名性がトラブルの温床になっているとの指摘もあり、今年4月から携帯電話による登録も必要とし、身分確認の仕組みを厳重化するゲーム会社が増えつつある。今年中に大手5、6社が導入し、来年以降は中小ゲーム会社も導入していくという。

 リネージュ2を運営するエヌ・シー・ジャパン(東京)は2人の逮捕後、「不正なプログラムの利用やRMTの利用はアカウントを危険な状態にするだけでなく、犯罪に加担することにもなりかねない」と警告。
今後もさらに対策活動を強化していくとしている。

 被害者は誰か?
 ゲームのIDとパスワードを盗まれているかもしれない-。プレーヤーがそう気付いても、法律的にはプレーヤーは被害者ではなく、ゲーム運営会社になる。プレーヤーが警察に被害を届け出ても、相談に乗ってもらう程度になってしまう。

 ネットセキュリティーに詳しい独立行政法人産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は、「不正アクセス禁止法はネットの秩序維持が目的」と法制定の趣旨を説明する。
アイテムが不正に盗まれていたことについて、高木主任研究員は、「被害者はアイテムやIDのような電磁的記録を作成し管理するゲーム会社であり、アイテムを盗まれたプレーヤー本人ではない」と指摘している。

 プレーヤーから見れば、アイテムが勝手に盗まれたように見えるが、その実態はゲームの電磁的記録が保存されているゲーム会社のサーバー内でアイテムのデータが不正に移動されたということになる。サーバーを管理する会社側からすれば盗られたものは何もないということ。IDやパスワードを盗み見され、こつこつ獲得してきたアイテムを勝手に転売されても、そのプレーヤーを守ってくれるネット向けの法律は存在しないのだ。

 このような数々の問題がある中、高木主任研究員は「捜査機関が摘発するにはゲーム運営会社を被害者として、業務妨害容疑を適用するしかない」と断言している。

 プレーヤーの被害を救済するため、窃盗罪の適用を求める声は以前から業界内で上がっている。
不正アクセス禁止法の罰則は懲役1年以下と比較的軽微であるのに対し、窃盗罪は同10年以下でより重い刑罰が科せられる。
窃盗罪の適用には、仮想通貨やアイテムを「財物」と認定することが前提となるが、これらはあくまでゲーム会社のサーバー上のデータ。
専門家の間では窃盗罪の認定は困難との意見が多い。

 甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「財物は民法上、有体物と定義され、(ゲーム内などの)仮想上のモノは適用されないので窃盗罪適用は困難。
財産上の利益を奪うという点で詐欺罪は問えるかもしれない」と解説。
有効な対策としては、「不正アクセス禁止法の量刑を重くするのが現実的」と指摘する。

 ゲーム事情に詳しい立命館大学の新清士(しん・きよし)非常勤講師は「ゲーム会社側はアイテムを財物と認めてしまうと、人気が低下し需要がなくなってもゲームサービスを停止することができなくなってしまう」と説明する。
ゲームを閉鎖する際に、プレーヤーが「財物」としてのアイテムの所有権を主張し出すと収拾がつかないためという。

 被害拡大の懸念も
 近年、多数のプレーヤーが交流しながら参加できる携帯電話のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上のゲームサイトを利用する人々も増加している。
急成長するこれらの市場でも、同様の被害の発生が懸念される。
法が未整備の中、関係者の間では、新たな被害への警戒感が広がっている。

 日本オンラインゲーム協会の川口洋司事務局長は、「携帯電話やスマートフォン(高機能携帯電話)でゲームをする利用者への被害が心配だ」と危惧する。
携帯電話向けのゲーム市場は、通勤や通学の電車内、ちょっとした待ち時間にも遊ぶことができ、その気軽さや利便性から昨今、急成長を遂げている。

 川口事務局長は、「オンラインゲームについての法的整備は業界でも意見が分かれており、今後の課題だ」と話している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101212-00000535-san-soci

投稿者 goemon : 07:55 | トラックバック(0)