「立野幸雄文庫」は、富山市生まれの作家・立野幸雄(たての ゆきお)の作品を集めた文庫です。 立命館大・慶大の各文学部で日本文学・国史を学び、文学修士・人間学修士を取得。 富山県立高校教諭・校長、県立図書館長、射水市大島絵本館長を歴任した文人作家であり、 とやま文学賞、富山新聞文化賞、北日本掌編小説賞など数々の受賞歴を持ちます。
小説『桜鬼と鰻神』『雨夜の花火』『ウルビーノ・風の声』ほか、 泉鏡花・岩倉政治・高島高・源氏鶏太・与謝野鉄幹らを論じた文学評論、 講演叢書全7巻(『夫婦道連れ作家道』〜『越中売薬と薩摩藩』)まで、 一人の作家の歩みをひとつの棚にまとめました。
電話や会話でご紹介いただく際は、次のフレーズで検索できます: 立野幸雄文庫 オブアワーズ または 立野幸雄 富山 作家
親サイトは 私の本屋さん (有限会社オブアワーズ・石川県野々市市)です。
人気のない満開の桜の下を歩くとき、ふと肌を刺す冷ややかな戦慄。雨あがりの紫陽花園で出会う、見知らぬ気配。そして、煌々と冴えわたる月の光が呼び覚ます、遠い夜の記憶——。見慣れた日常の風景が、ふいに異界へと反転する。その一瞬を掬いとった、幻想随筆集です。
富山の川縁、公園、山、湯の宿——身近な土地の風景を舞台に、美しさの裏に潜む「怪」を描く全13篇。桜・紫陽花・螢・ヒマワリ・月。花鳥風月の美と、その奥にひそむ民俗・伝承の記憶をたどります。萩原朔太郎、中原中也、国木田独歩ら近代文学の詩文が織り込まれ、読書の愉しみが幾重にも広がります。『富山の文学・歴史散策』(2023年・桂書房)所収「とやま幻想」を改題・増補し、新作を加えた一冊。
花鎮め/紫陽花と雨夜の顔/螢の行方/水辺の通り魔/山の彼方に/昼下がりの憂鬱/黒いヒマワリ/一本道とレモンの香/お客は羅漢さま/百間川の闇/闇夜の露天風呂/月夜の遠吠え/忘れ得ぬ光景と本(巻末に著作一覧・著者紹介を収録)
満開の桜の下で、棄てた女たちの怨念が甦る——。女好きの医師が、亡き友の葬儀で再会した女に誘われ、かつて幾度も逢瀬を重ねた桜の樹の下へと向かう。そこで彼を待っていたものとは。表題作をはじめ、焼け野原となった都の狭いお堂で勧進聖たちが奇怪な体験を語り合い、性愛と罪、因果応報、そして贖罪の物語が連なっていく——。
桜の妖艶と水底の不気味さ、なまめかしさと怖さが背中合わせに同居する、幻想怪奇の連作短編集です。古都を舞台にした語りの妙、こまやかな心理描写、そしてどこか艶めいた筆致が、読む者を朧月夜のような薄明かりの世界へ誘います。貫くテーマは「美しいものは、多くの怨念を養分として育つ」。美しさに魅入られ、罪を重ね、それでも逃れられない人の業を、桜と鰻という二つのモチーフが静かに照らし出します。
全4編。いずれも文芸誌『北國文華』掲載作を収録。
立野幸雄(たての・ゆきお)。1950年富山市生まれ。立命館大・慶大の各文学部卒、文学修士・人間学修士。富山県立高校教諭・校長、県立図書館長、射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。著書に『ケセラセラ、見上げれば青い空』『ラブ・アップル 夏の匂い』『富山文学探訪』ほか。
明治二十二年、十六歳の泉鏡花は、金沢を離れて富山町に三か月ほど滞在した。生まれて初めての、長い一人旅である。神通川の氾濫、御屋敷田甫にそびえる一本榎、佐々成政と早百合姫のぶらり火伝説、立山に咲くという黒百合——異郷で見聞きしたものは、のちに「蛇くひ」と「黒百合」に結晶する。ところが、この二作に描かれた富山町は、実際の富山町ではない。東西も南北も、百八十度、逆さになっているのだ。滞在したはずの町を、なぜ鏡花は反転させたのか。本書は、その一点を追いかけます。
「蛇くひ」の前身「両頭蛇」が師・尾崎紅葉に発表を止められた経緯から説き起こし、作品に現れる口碑・伝説・稗史・噂・民俗・事件を一つずつ拾い上げて、実際の土地の上に置き直します。徹底したフィールドワークが本書の背骨。大学院修士論文を骨格とし(要約した「榎と洪水」で第三十四回とやま文学賞を受賞)、当時の論を書き直さずに、研究の過程としてそのまま世に問うた一冊です。
「蛇くひ」を鏡花の「事実上の第一作」と呼んだ笠原伸夫の言葉に寄り添いながら、鏡花文学の原点を、少年の目が見た富山に探ります。
『戦艦武蔵』の吉村昭と、芥川賞作家・津村節子。文学に魅入られた作家夫婦の五十年を、二つの講演で語り尽くします。学習院の文芸部で出会った二人を待っていたのは、東北・北海道への行商の旅と、「一つ屋根の下に鬼が二匹棲んでいるような」修羅の新婚時代。妻・津村節子が先に芥川賞を受賞したとき、夫・吉村昭は深いスランプに沈む——そこから彼を浮上させたのが『戦艦武蔵』でした。
生前の吉村昭を富山に招き、じかにその肉声に触れた著者ならではの逸話を多数収録。「神々の沈黙が一番のお気に入りだ」「書くことと書かないことをはっきり決める」——著者が直接聞いた吉村昭の言葉が随所に息づきます。舌癌の療養中、自ら点滴の管を外して逝った吉村の壮絶な最期と、遺された津村節子の悔いと立ち直りまでを丹念にたどります。講演録ならではの平明な語り口で、文学研究の予備知識は不要です。
第一講「夫婦道連れ作家道 〜吉村昭と津村節子の場合〜」(二人の出会いと結婚/結婚後の修羅の日々/新たな創作への試み/吉村の最後の時/津村の悔いと立ち直り)/第二講「吉村昭の流儀 〜『戦艦武蔵』とその前後の作品を中心として〜」
「東海道四谷怪談」は日本人なら誰もが知る怪談の金字塔。しかしその真の姿を、私たちはどれほど理解しているでしょうか。実は四谷怪談は、1825年(文政8年)に『忠臣蔵』と同じ日に平行上演された作品です。赤穂義士の華々しい忠義が「表」ならば、四谷怪談は「裏」——金と色欲にまみれた人間の暗部をえぐり出す物語として機能しました。忠臣蔵のパロディにして、その退廃した裏面。四谷怪談とはそういう作品だったのです。
作者・四世鶴屋南北は当時の江戸の事件、先行作品の趣向、累伝説や産女伝説などを巧みに組み合わせ、それまでにない新しい恐怖を舞台に生み出しました。髪梳きの場の凄惨さ、戸板流し、提灯から逆さまに現れる幽霊——その演出ひとつひとつには江戸の俗信と民間信仰が深く刻まれています。怖いのには、ちゃんと理由があった。化政期という爛熟と退廃の時代を生きた江戸庶民が、悪のエネルギーに熱狂し、社会の矛盾を笑い飛ばそうとした——四谷怪談はそんな時代の叫びでもあります。
知っているつもりの四谷怪談が、まったく別の顔で立ち現れてくる一冊です。
幕末、破産寸前だった薩摩藩を救ったのは——意外にも、越中富山の売薬行商人たちでした。「薬と昆布」が結んだ、知られざる近世史。本書は、富山売薬と薩摩藩との相互利益の関係を、対中国(清)貿易の視点から丹念に解き明かす一冊です。
富山の売薬行商人が、北海道で買い占めた昆布を北前船で薩摩へ搬送し、その見返りに薩摩から沖縄経由の中国産の良質の薬種を富山まで運ぶ——その流れによって薩摩と越中が潤い、それが日本の近代の幕開けにも大きく役立った、と著者は説きます。幕末期の富山売薬行商人の薩摩での活躍と、それに対応する薩摩藩の状況を、対中国貿易の「薬と昆布」に観点を置いて見ていきます。
定年後の秋の日、海へと続く田の中の一本道を歩きながら、「私」はふと、半世紀前の京都で出会った幻の女を思い出す。眩い光の中から現れ、レモンの香を残して束の間に消えた、あの女はいったい何者だったのか——。老いの道の途中で、青春はもう一度、香り立つ。人生に置き忘れた記憶をめぐる、八つの物語。
高村光太郎の「道程」「智恵子抄」「レモン哀歌」を縦糸に、老いの日々によみがえる青春の記憶を、切なくも愛おしく描く私小説短編集。北陸・富山の風土を背景に、人生の岐路に置き忘れてきたものたちが、香りとともに立ちのぼります。
表題作「レモンの残り香」ほか全八篇を収録。ペーパーバック・174頁。
立野幸雄(たての・ゆきお)。1950年富山市生まれ。立命館大・慶大の各文学部卒、文学修士(仏教大)、人間学修士(武蔵野大)。民間企業を経て富山県立高校教諭・校長、県立図書館長、射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。「停車場」(北日本掌編小説賞)、「雨夜の花火」(銀華文学賞佳作)。著書に『ケセラセラ、見上げれば青い空』『ラブ・アップル 夏の匂い』『越中文学の情景』『富山文学探訪』など。
高野の御山の、雨のお堂。行き会わせた三人の法師が、おのれの出家のいきさつを語り始める——。飢餓の都に現れた鬼の宴。楓の洞から生まれた異形の鰻。月夜の桜に巣くう魔性の女。中世の闇を舞台に、罪深き発心の記憶が明かされます。
諸国を廻る勧進聖の語りに導かれ、三人の法師の懺悔談が入れ子で展開する、語り物の口調(「ございます」体)で綴られた中世幻想譚。飢饉の都の凄惨、妖艶な桜の林、異形の鰻の怪——説話文学の骨法に現代の筆致を重ね、読む者を中世の闇へ引き込みます。
物語の最後、法師たちの話を仄聞した高僧は言います。「池に投げ込んだ石は、石自体の重みによって沈む。人は、自分の犯した罪の重みによって沈み込む」——懺悔は罪を軽くするのか。善と悪を分けるものは何か。三つの怪異譚の底に、罪と救いをめぐる問いが静かに横たわります。
立野幸雄(たての・ゆきお)。日本文学・国史専攻卒、文学修士(佛教大)、人間学修士(武蔵野大)。企業勤務を経て富山県立高校教諭・校長、富山県立図書館長、射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞、北日本掌編小説賞受賞。著書に『ケセラセラ、見上げれば青い空』『ラブ・アップル 夏の匂い』ほか。
受験の冬、雪の停車場で闇に浮かぶ「自分の顔」と出会った少年。騒乱の京都で〈張り詰めた生〉を求めてさまよう剣道青年。内田百閒の「闇」に導かれ、封印した若き日の記憶へ降りてゆく男。そして良寛の書に「仄かな希望」を見いだす四十歳の日々。北陸の雪と海を背景に、生き難さの果てに灯る光を描いた私小説四篇です。
北日本掌編小説賞受賞作「停車場」、銀華文学賞佳作の表題作「雨夜の花火」を含む短篇集。富山に生まれ、教育と文学に生きた著者が、受験期から大学紛争の時代、社会人の孤独、そして中年の生き直しまで——自らの青春と半生を素材に、一貫して「闇」と「光」を見つめた四篇を収めます。
四篇を貫くのは、「生きている実感」への渇望です。雪の北陸、一九六九年前後の京都、岡山・百間川の闇夜、そして良寛ゆかりの北陸の港町。それぞれの土地の闇の中で主人公たちはもがき、やがて「全てのものを受け入れて、素直に生きる」という良寛の言葉にたどり着きます。闇を描き切るからこそ見えてくる、仄かな光の物語。表題は「あの花火でさえ、誰一人見ていない雨夜の空で、自分なりの花を暗雲の中で咲かせたに違いない」という一節に由来します。
立野幸雄(たての・ゆきお)。1950(昭和25)年富山市生まれ。立命館大・慶應義塾大の各文学部(日本文学・国史専攻)卒。文学修士(佛教大)、人間学修士(武蔵野大)。富山県立高校教諭・校長、富山県立図書館長を経て射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。著書に『ケセラセラ、見上げれば青い空』『ラブ・アップル 夏の匂い』『ウルビーノ・風の声』ほか。
大切な人を失ったとき、ひとは、どこへ向かえばいいのか。イタリアの古都ウルビーノに響く風の囁き。黒く枯れた向日葵の丘。雪の夜の病院。亡き友を悼む利賀の谷。そして、満開の桜が舞う越中滅鬼——。大切な人を失った者たちが、悲しみの底で小さな光を見いだすまでを、澄んだ筆致で描く珠玉の短篇小説集です。
イタリア(ウルビーノ、アスコリ・ピチェーノ)と越中富山、二つの風土を往還する六つの物語。喪失・祈り・再生という普遍の主題を、私小説的な静かな語り口で描きます。「死ぬなら死ぬのもいい。生きるなら生きてもいい。その時を、ただあるがままに受け入れる」——臨死の記憶を抱えた男が桜吹雪の中でつかむ答え(「滅鬼の桜」)が、全篇の到達点を照らします。
立野幸雄(たての・ゆきお)。1950(昭和25)年富山市生まれ。立命館大・慶大の各文学部の日文、国史専攻卒。文学修士(仏教大)、人間学修士(武蔵野大)。富山県立高校教諭・校長、同県立図書館長を経て射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。「停車場」(北日本掌編小説賞)、「雨夜の花火」(銀華文学賞佳作)。
一九七〇年、北陸の夏。少女が差し出したのは、囓りかけの林檎——。山と恋に揺れる十七歳の勲の、恋と官能のめざめを描く青春長篇小説です。
舞台は七十年安保の時代、北アルプスを望む富山の進学校。受験一色の補講の教室、能登島の海、薬師岳の稜線——北陸の夏の風景の中で、少年の初恋と性のめざめが濃密な筆致で描かれます。表題の「ラブ・アップル」は、恋した女が皮を剥いた林檎に自分の匂いを染み込ませ、想いを告げる相手に手渡すという古い恋の習わし。表紙の囓りかけの林檎が、その一瞬を封じ込めています。
章立てを持たない、一気読みの長篇です。補講の教室から、富山の街、能登島の秘密の浜辺、薬師岳の頂へと、ひと夏の時間が途切れることなく流れていきます。
立野幸雄(たての・ゆきお)。一九五〇(昭和二五)年富山市生まれ。立命館大・慶大の各文学部の日文、国史専攻卒。文学修士(佛教大)、人間学修士(武蔵野大)。富山県立高校教諭・校長、同県立図書館長を経て射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。「停車場」(北日本掌編小説賞)、「雨夜の花火」(銀華文学賞佳作)。
教員を続けるか、辞めるか。迷える若き国語教師・啓介が、二年生を連れて信州戸隠へ三泊四日。胡麻擦り教頭に言い寄る同僚、珍事続きの旅先で待っていたのは、運命の出会い——。笑いの底に生きる元気を宿す、青春ドタバタ長篇小説です。
元商社マンの国語教師・啓介(あだ名「拳キチ」・少林寺拳法五段)が、二年生三クラスを引率して富山から普通列車を三度乗り継ぎ、信州戸隠へ。「威張り蛙」の教頭ケロヨン、「化け七」と呼ばれる同僚・片山、手のかかる生徒たちに振り回されながら、旅先で出会った都会の女子大生・寿恵に心を奪われる——。ドタバタと下世話な笑いの底に、教員として、ひとりの男として「どう生きるか」を問う青春小説です。
初日(全四章)/二日目(全七章)/三日目(全二章)の三泊四日構成・全十三章。松本駅のホームに始まり、戸隠奥社の青空で結ばれます。四六判・439ページ。
立野幸雄(たての・ゆきお)。1950年富山市生まれ。立命館大・慶大の各文学部で日本文学・国史を専攻。文学修士(仏教大)、人間学修士(武蔵野大)。富山県立高校教諭・校長、富山県立図書館長を経て射水市大島絵本館長を歴任。とやま文学賞・富山新聞文化賞受賞。「停車場」(北日本掌編小説賞)、「雨夜の花火」(銀華文学賞佳作)。著書に『ラブ・アップル 夏の匂い』『雨夜の花火』『ウルビーノ・風の声』ほか。