ウイニー裁判を振り返って

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 注目しているウイニー裁判が結審してから、そろそろ一カ月になる。公判録と、結審後の報道を読み直して、ウイニー裁判を振り返った。

 産経新聞の「改めて無罪を主張 ウィニー最終弁論」の報道によれば、弁護側は最終弁論で、「(ウイニーは)匿名性と効率性を両立した新しい技術の検証が開発目的であり、著作権侵害の意図はない」とし主張したと報じ、続けて

 弁護側は最終弁論で「ソフト自体に違法性はない。ソフトを開発、公開しただけの被告を、(ソフトを)悪用するユーザーの幇助犯に問えない」と主張。「今回の起訴で、あらゆる技術者が不明確な幇助の可能性に萎縮(いしゅく)し、日本の技術革新への大きな足かせになっている」と現状を指摘し、捜査を批判した。
と伝えている。

 しかし、裁判録からは、検察官はソフト自体の違法性を問うているようには見えなかった。対して、弁護人は、法廷にパソコンを持ち込んで、ウイニーのシーズ(技術の種)の説明に力を入れていたように思う。
 一方、開発目的は「匿名性と効率性を両立した新しい技術の検証」としている。しかしながら、検察官が問題としているのは、匿名性と効率性といったウイニーのシーズではなく、被告人が取った技術の検証の仕方ではなかっただろうか。
 しかし、弁護人は、これに対する立証はほとんどせず、ウイニーのシーズの説明に力点を置いていたように思う。例えば、実験に参加してくれる人達への検証方法の説明や告知など、被告人の取った方法に、なんら問題ないことを説明し、検察官の主張に対して正面から反論するといったこともしていなかったよう(力点が置かれていない?)に思う。

 また、「今回の起訴で、あらゆる技術者が不明確な幇助の可能性に萎縮(いしゅく)し、日本の技術革新への大きな足かせになっている」とする点に関して、技術者がいかに萎縮しているとか、日本の技術革新にどのように大きな足かせになっているか、証人も少なく、説得的な立証もされていなかったように思う。ただ、弁護人がそう思っているだけ程度にしか伝わっていないように思える。

 次ぎに、INTERNET Watch で、弁護人が「警察に協力的すぎたのが問題だった」と主張している。これもまた変な話である。弁護人は何時そのことに気付いたというのだろうか。裁判が始まる前か、あるいは、裁判の最中か、はたまた、裁判が終わってからなのだろうか。そして、この認識に対して、公判の中で、どう対策し、反論してきたと言うのだろうか。
 裁判の冒頭陳述では主張していないようであるし、公判の中で、被告人が「警察に協力的すぎている」と主張しているようにも思えない。なぜ今なのか、法廷外での唐突な主張に感じる。

 最後に、裁判が始まるときに注目していた点に関して、弁護人の冒頭陳述での主張からすれば、ウイニーの社会での有用性を説得的に証明し、社会に組み込むときのバランスを評価し、被告人の行為の正当性を立証するものと思っていた。しかし、残念ながら弁護人は、立証できなかった(しなかった)ように思う。真実はそこにはなかったということであろう。

 裁判官はどう見たのだろうか。いずれにしても、12月には判決がでる。


 そしてもう一つ。 今回の裁判での弁護は、「誰の為の、何の為の弁護だったのだろうか」。最後までこの疑問が払拭できなかった。疑問の根底には、弁護人の次の主張がある。刑事弁護は、政治的主張をすることではないと思うのだが・・・。

 弁護の意義を見いだしにくい事件が多い中で、彼を弁護し、表舞台に引き上げることは、今後のプログラマの開発環境や、日本の国際競争においても重要であると思っています。

 コンテンツビジネスや著作権法が変わるべきだと考えているのは、金子氏ではなく私である。意図が問題なのであれば、逮捕されるのは私である。著作権法もろくに知らないプログラマを人柱にすることは間違いである。

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ハスカップ :

 被告人と弁護人に不幸だったことは、「ウイニーの社会での有用性を説得的に証明」する前に、「官房長官が公式にコメントするほどアンティニーの情報漏えいが社会的混乱を生じた事実」が公知の事実(不要証)として立証されてしまったことでしょう。
 これは検察の実力とは何の関係もないが、勝手応援団のような神風が吹いてしまったことです。これに対する弁護側の有効で説得的な反証がなかったことが悔やまれます。

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このページは、弁天小僧が2006年9月30日 12:33に書いたブログ記事です。

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