無剰余取消規定(民事執行法63条)の適用の有無

Q 無剰余の場合の競売手続き取消の規定(民事執行法63条)は、限定承認の場合の相続財産換価のための競売にも適用されるのか。

A 東京高裁平成5年12月24日決定
 「法195条は、相続財産の競売については担保権の実行としての競売の例による旨規定し、相続財産の競売についても何らの留保なく法63条を準用しているから、相続財産の競売には無剰余取消の規定が適用されると解するのが相当である。 
 抗告人らは、相続財産の競売が無剰余で取り消された場合、限定承認者は、限定承認手続を終了させることができないことになり不都合であり、相続財産の競売には無剰余取消の規定が適用されない旨主張するが、限定承認の場合に先順位抵当権者等が自ら競売の申立てをしないのは、現状では被担保債権の十全な満足を得ることができないため当該相続財産の価額の値上がりを待っているなどの事情があることが通常であり、先順位抵当権者等の右期待を無視して、無剰余であるにもかかわらず、限定承認手続を終了させるためだけの目的で相続財産の競売を進行させることは相当でないから、所論は採用できない。」
 尚、改正破産法184条3項は、競売手続きにあける無剰余取消の規定の適用を排除した。この点について後記「No.30」を参照されたい。

(留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売)
民事執行法195条
 留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。

(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
民事執行法63条
 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一  差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二  優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2  差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合
  申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合
  買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3  前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4  第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。


 上記東京高裁決定が説示する「限定承認の場合に先順位抵当権者等が自ら競売の申立てをしないのは、現状では被担保債権の十全な満足を得ることができないため当該相続財産の価額の値上がりを待っているなどの事情があることが通常であり、先順位抵当権者等の右期待を無視して、無剰余であるにもかかわらず、限定承認手続を終了させるためだけの目的で相続財産の競売を進行させることは相当でない」との立論も理解できない訳ではない。
 しかし、そうであれば、限定承認の財産管理人としては、当該不動産の競売換価は、とりあえず見送り、他の換価した財産により、いわば中間配当したうえ、抵当権者による当該不動産の競売申立を待つという方法をとらざるを得ないことになる。
 限定承認手続きを終了できないという問題が、この場合にも生じることになる。


詳しくは「改訂限定相続の実務」で。




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