IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

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  目  次

電磁的記録不正作出及び供用罪

ロ 電磁的記録不正作出及び供用罪

(電磁的記録不正作出及び供用)
刑法161条の2
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3  不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4  前項の罪の未遂は、罰する。

 この刑法に新設された「電磁的記録関連の罪」に関する「電磁的記録」については、刑法7条の2が、その意味、定義をしている。

 「この法律において電磁的記録とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう」と。簡単に言えば、コンピューター「ファイル」を意味していると考えていい。

IT注書き

  ファイル=コンピューターでデーターを取り扱うための基本概念(事典715頁)

  わかりやすく、間違いをおそれず、表現すれば、「ひとかたまりの独立したデーターないしプログラム」とでも理解すればいい。

 これらの犯罪は、従来の文書偽造、有価証券偽造などの罪に規定されている「文書」概念や「有価証券」概念などの「もの概念」の範疇外のデジタル版なのである。

 従来の文書偽造や有価証券偽造の罪と同種の犯罪類型として、電磁的記録不正作出及び供用の罪が新設されたのである。


図3

 

 上記の電磁的記録不正作出及び供用の罪について、保護すべき対象であるファイルについて、法律は、「権利、義務又は事実証明に関する」という限定をつけている。これは、従来の文書偽造等の罪と同様である。 このような条件に該当しないファイルは、上記のような電磁的記録保護罪では保護されないこととなる。

 典型的なものとして、コンビュータープログラム自身である。コンビュータープログラムは上記の条件には該当しないので、この電磁的記録不正作出及び供用の罪の対象とはならないのである。

 もちろん、コンビュータープログラムを不正に作出した場合、コンビュータープログラムの著作権侵害となり得るのは別のことである。

コンビュータープログラム

著作権法10条抜粋

この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。

9 プログラムの著作物

第1項第9号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。

1 プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。

2 規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。

3 解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。

 

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