IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

支払用カード電磁的記録不正作出罪

ハ 支払用カード電磁的記録不正作出罪

 他方、従来の文書、有価証券の偽造等の罪にはない類型の規定も見られる。

  主としてクレジットカード犯罪に対処するために設けられた「支払用カード電磁的記録に関する罪」である。

第十八章の二 支払用カード電磁的記録に関する罪
(支払用カード電磁的記録不正作出等)

刑法163条の2

  人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

  預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。

2  不正に作られた前項の電磁的記録を、同項の目的で、人の財産上の事務処理の用に供した者も、同項と同様とする。

3  不正に作られた第一項の電磁的記録をその構成部分とするカードを、同項の目的で、譲り渡し、貸し渡し、又は輸入した者も、同項と同様とする。


(不正電磁的記録カード所持)

刑法163条の3

  前条第一項の目的で、同条第三項のカードを所持した者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(支払用カード電磁的記録不正作出準備)

刑法163条の4

  第百六十三条の二第一項の犯罪行為の用に供する目的で、同項の電磁的記録の情報を取得した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

  情を知って、その情報を提供した者も、同様とする。

2  不正に取得された第百六十三条の二第一項の電磁的記録の情報を、前項の目的で保管した者も、同項と同様とする。

3  第一項の目的で、器械又は原料を準備した者も、同項と同様とする。

(未遂罪)

刑法163条の5

  第百六十三条の二及び前条第一項の罪の未遂は、罰する。


図4

 

 刑法163条の4に定められている支払用カード電磁的記録不正作出準備の罪は、「犯罪行為の用に供する目的」で、同項の「電磁的記録の情報を取得した者」を処罰すると定めている。電磁的記録の「情報」を取得したものを処罰するのである。

(情報窃盗)

  従来の刑法においては、「情報の取得」ないし「情報の窃取」についての処罰規定はない。刑法は「情報窃盗」というような類型の犯罪については規定していなかったのである。

  しかし、銀行等金融機関から預金等を払い戻すキャッシュカードについて、その電磁的記録を密かに読み取り、その読みとった電磁的記録をつけたカードを作出し、これを使って他人の預金を権限もなく払い戻すというような犯罪が現れた。このような犯罪の準備行為としての「電磁的記録」の「取得行為」を処罰することとしたのである。



図5

 上に記載したように、単なる「情報の取得や窃盗」についての処罰規定は設けられなかったのである。

  もちろん、このような情報の窃盗や取得についても処罰規定を設けるべきではないかとの議論はなされたのものの、結論として、このような処罰規定を設けることは見送られたのである。

  その理由は、つぎのようなものであったと報告されている。

 情報の不正入手及び漏示について

「情報の中には、秘密情報、プライバシー情報にかかる情報あるいは財産的価値ある情報等様々なものがあり、その不正入手等に対する罰則の要否等については、これらの情報の法的保護はいかにあるべきか、殊にそれぞれの情報の特質に応じた取扱いをどうするべきか、また、電子情報処理組織以外で用いられる一般の情報の取扱いとの均衡、関連する各種法規の諸規定との関係をどのように考えるかなど、更に諸般の角度から検討を重ねる必要のある多くの問題が存する」(「刑法等の一部を改正する法律について」多谷千香子ほか、法曹時報39巻12号)。

 上記のとおり、法律が特別に定めた上記のようなもの(後注・「不正競争防止法」参照)以外の「情報の窃盗や取得」については、「これを処罰する規定が設けられなかった、ない」のである。

 IT技術者の方には、ここを充分理解しておいて欲しい。

  この支払用カード電磁的記録不正作出準備の罪の行為については、「犯罪行為の用に供する目的」と規定され、このような犯罪目的のための電磁的記録の取得を処罰する「目的犯」とされている。例え、電磁的記録を取得する行為をしたとしても、このような犯罪目的がなければ犯罪とならないのである。

  他方、この犯罪の行為については、単に「取得する」行為を処罰する旨定められている。その取得行為について、「権限の有無を問わない」表現となっている。これは、「当該電磁記録の管理などを業務として行っている人間、例えば当該カードの発行会社の従業員が行っても、上記のような犯罪目的であれば、犯罪となる」ということを意味することとなるのである。

 現在、このように「カードの電磁的記録を盗み取る行為」が、無線を介して、また無線を介さず正規のカードとの接触等の行為により、行われているとマスコミ等で報道されている。いわゆるスキミングという手口である。

  スキミングには、ふたつの手口があると言われている。

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スキミングの手口は2つ。

  1つは、カード支払い用の信用照会機(CAT)に集積回路の装置をつけ、カードの電磁的記録データを読み取って蓄積させ、再び侵入してこれを回収し、電磁的記録データを別のカードに再入力する。

  東京では、装置の回収の必要のない無線送信型の存在も確認されているという。

  もう1つはハンドスキマーと呼ばれる携帯のデータ読み取り機にカードを通し、直接データを盗む手法。風俗店などの利用客が財布を身から離したすきにカードを抜いてデータを読み取る。カードは元に戻すため、被害に気付きにくい。

  偽造の関連機器がインターネットを通じて売買されている。
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http://www.security-joho.com/topics/2004/cardgizou.htm 

 これらの犯罪規定は、いずれも「電磁的記録」についての、犯罪を規定したものである。

  これらの犯罪類型は、コンピューター社会における社会生活上重要なコンピューターの電磁的記録を保護するとともに、カード社会におけるカードが有価証券類似の機能を有するに至ったことを踏まえて、カードの電磁的記録を保護して、これらのカードによる取引を保護しようとするものである。

 いずれについても、電磁的記録自体を保護しょうとするものであり、いわばデジタルデーターそれ自体を保護しょうとするものであり、デジタルデーターを保有するコンピューターの機械としての社会的な機能や決済手段としてのカードの社会的な機能と信頼を保護しようとするものである。

3 以上の新設の犯罪類型は、社会的に有用なエネルギーや電磁的記録などの社会的資源それ自体を保護しようとするものであり、社会の進歩、発展により、当然新設されるべきものとも言える。

 

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