IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

Winny事件判決など

一 論告

1 Winny事件の論告が平成18年7月3日京都地裁で行われたようである。

ウィニー開発・公開の元東大大学院助手に懲役1年求刑

 ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発、インターネットで公開し、ゲームソフトなどの違法コピーを手助けしたとして、著作権法違反(公衆送信権の侵害)ほう助罪に問われた元東京大大学院助手金子勇被告(35)に対する論告求刑公判が3日、京都地裁(氷室真裁判長)であった。

 検察側は「著作権侵害に向けられた確定的犯意に基づく犯行で、被害は甚大」などとして、懲役1年を求刑した。弁護側が9月4日に最終弁論を行い、結審する。
論告で検察側は、金子被告が「インターネット社会では情報はタダで当たり前」などとネットの掲示板に書き込んでいたことを明らかにした上で、「著作権侵害にウィニーが利用されることを意図して開発、公開したことは明白」と指摘した。

(読売新聞) - 7月3日20時22分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060703-00000005-yom-soci&kz=soci

2 弁護人らは無罪主張をしているようであるが、検察は被害甚大と論告している。

弁護人らの思惑どおりに無罪判決がでる場合には問題とはならないが、有罪判決となった場合
イ 被害の大きさ
ロ 改悛、反省の情の程度から、量刑が気になってしまいます。 

3 弁論-9月4日弁護側の弁論が行われたようである。

被告側、無罪求め結審―ウィニー事件

ウィニーの開発で、著作権法違反ほう助の罪に問われた事件で、公判に先立ち記者会見する金子勇被告。公判では改めて無罪を主張。

判決は12月13日に言い渡される

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060904-04685546-jijp-soci.view-001 

二 一審判決

1 Winny事件の一審判決(有罪)が平成18年12月13日京都地裁で行われたようである。

<ウィニー裁判>元東大助手の金子被告に有罪判決 京都地裁

12月13日10時19分配信 毎日新聞

 匿名性が高いファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」の開発・公開で映像データなどの違法コピーを助長したとして、著作権法違反のほう助罪に問われた元東京大助手、金子勇被告(36)=東京都=に、京都地裁(氷室眞裁判長)は13日、罰金150万円(求刑・懲役1年)の有罪判決を言い渡した。同交換ソフト開発者が「犯罪のほう助」で有罪となったのは全国で初めて。金子被告は控訴するとみられる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061213-00000022-mai-soci


2 判決量刑など
 検察官の求刑は懲役1年という内容であったが、判決は罰金150万円というもの。
 裁判所が、量刑に悩んだことが伺える。
 裁判所の量刑をどのように理解すべきなのか、議論があり得るものと思われる。
3 判決要旨

「ウィニー」裁判、判決要旨

2006年12月13日17時31分

ファイル交換ソフト「ウィニー」の開発・公開をめぐる刑事裁判で、京都地裁が13日、開発者を有罪とした判決理由の要旨は以下の通り。

 ●被告の行為と認識

 弁護人らは、被告の行為は(著作権法違反の)正犯の客観的な助長行為となっていないと主張する。しかし、被告が開発、公開したウィニー2が、実行行為の手段を提供して、ウィニーの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめた客観的側面は明らかに認められる。

 ウィニー2は、それ自体はセンターサーバーを必要としない技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものだ。技術自体は価値中立的であり、価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない。

 結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである。

 被告の捜査段階における供述や姉とのメールの内容、匿名のサイトでウィニーを公開していたことからすれば、違法なファイルのやりとりをしないような注意書きを付記していたことなどを考慮しても、被告は、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した。

 そうした利用が広がることで既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーを開発、公開しており、公然と行えることでもないとの意識も有していた。

 そして、ウィニー2がウィニー1との互換性がないとしても、ウィニー2には、ほぼ同等のファイル共有機能があることなどからすれば、本件で問題とされている03年9月ごろにおいても同様の認識をして、ウィニー2の開発、公開を行っていたと認められる。

 ただし、ウィニーによって著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない。

 なお、被告は公判廷でウィニーの開発、公開は技術的検証などを目指したものである旨供述し、プログラマーとしての経歴や、ウィニー2の開発を開始する際の「2ちゃんねる」への書き込み内容などからすれば、供述はその部分では信用できるが、すでに認定した被告の主観的態様と両立しうるもので、上記認定を覆すものではない。

 ●幇助の成否

 ネット上でウィニーなどを利用してやりとりされるファイルのうち、かなりの部分が著作権の対象となり、こうしたファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されている。

 ウィニーが著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、広く利用されていたという現実の利用状況の下、被告は、新しいビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーが上記のような態様で利用されることを認容しながら、ウィニーの最新版をホームページに公開して不特定多数の者が入手できるようにしたと認められる。

 これらを利用して正犯者が匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機とし、公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから、被告がソフトを公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した行為は幇助犯を構成すると評価できる。

 ●量刑の理由

 被告は、ウィニーを開発、公開することで、これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし、著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識、認容していたにもかかわらず、ウィニーの公開、提供を継続していた。

 このような被告の行為は、自己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも、その弊害を顧みることなく、あえて自己の欲するまま行為に及んだもので、独善的かつ無責任な態度といえ、非難は免れない。

 また、正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際、ウィニーが、重要かつ不可欠な役割を果たした▽ウィニーネットワークにデータが流出すれば回収なども著しく困難▽ウィニーの利用者が相当多数いること、などからすれば、被告のウィニー公開、提供という行為が、本件の各著作権者が有する公衆送信権に与えた影響の程度も相当大きく、正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告の寄与の程度も決して少ないものではない。

 もっとも被告はウィニーの公開、提供を行う際に、ネット上における著作物のやりとりに関して、著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではない。著作権制度が維持されるためにはネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら、自己のプログラマーとしての新しい技術の開発という目的も持ちつつ、ウィニーの開発、公開を行っていたという側面もある。

 被告は、本件によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、ウィニーによって直接経済的利益を得たとも認められないこと、何らの前科もないことなど、被告に有利な事情もある。

 以上、被告にとって有利、不利な事情を総合的に考慮して、罰金刑に処するのが相当だ。

http://www.asahi.com/national/update/1213/OSK200612130057.html

三 判決関連感想など

 ファイル交換ソフト「Winny」の開発者で、著作権法違反幇助の罪に問われていた金子勇氏が、罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡された。今回の判決に対する評価や影響について、関係団体・企業に聞いた。

● 侵害行為が蔓延するのは必然、被告は判決を重く受け止めてほしい~ACCS

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)では、著作権侵害を防ぐ措置を講じないままファイル交換ソフトを開発・頒布すれば、そのネットワークを通じて侵害行為が蔓延するのは必然であるとした上で、「裁判所が認定した事実からすれば、本日の判決は妥当。被告には、この結果を重く受け止めてほしい」とコメントしている。

 さらに、「ゲームなどのソフトウェア、音楽、映画などの著作物を著作権者に断りなくWinnyを使ってアップロードすることは、著作権法に違反する行為(公衆送信権侵害)に変わりない」として、Winnyユーザーに対して違法行為を中止するように呼びかけた。

● 捜査機関が再びWinnyユーザー摘発に乗り出す可能性も~ネットエージェント

 ネットワークセキュリティを手がけるネットエージェントの杉浦隆幸代表取締役社長によれば、12月現在のWinnyユーザー(1日あたり)は平日で約39万人、土日で約45万人に上る。今回の判決がWinnyユーザーに与える影響については、「短期間でユーザー数が急減するかは不明」という。

 杉浦社長は、今後、ファイル交換ソフト利用者が逮捕される可能性を指摘する。Winnyユーザーの著作権法違反容疑での摘発としては、2003年11月に2名が逮捕されたのみだが、「今回の裁判の判決が下されるまで、捜査機関は摘発に踏み切れなかった」と分析。「金子氏に有罪判決が下されたことで、捜査機関は、他人の著作物を流通させているユーザーを(著作権法違反の正犯として)取り締まることも予想される」。

● コンテンツ配信システム「SkeedCast」には影響なし~IIJ

 また、金子氏が開発に参画したコンテンツ配信システム「SkeedCast(スキードキャスト)」を手がけるドリームボートに出資するインターネットイニシアティブ(IIJ)では、「SkeedCastはP2P技術を活用しているが、ファイルをアップロードできる人を限定したり、Windows Media DRMによる著作権管理を施している点などが、Winnyとは異なる。そのため、今回の判決がSkeedCastに与える影響はない」とコメントしている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061214-00000023-imp-sci

 

四 判決関連感想など-その2

 私は、法律の専門家ではないので、量刑が妥当なのかどうかについては良く分らない。しかし、裁判官の事実認識には違和感はなく、妥当なもののように思える。

 一方、今回の判決に関して、毎日新聞のWeb版で法律の専門家は、次のようにコメントしている。しかし、技術者がなぜ萎縮することに繋がるのか理解できず、コメントの主旨がいま一つ理解できない。

▽ネット社会に詳しい岡村久道弁護士(大阪弁護士会)の話 ウィニーが客観的に見て、料理にも殺人にも使える包丁なのか、もっぱら違法行為に使われるピストルなのかが問われていたのに、判決は踏み込んでいない。少子高齢化の中でハイテク技術大国を目指す日本の司法が、ハイテク先端部門にきちんとした判断をできなかった。委縮効果を生む懸念がある。

 私は、むしろ、今回の判決を受けて、社会のインフラとなる技術の開発に取り組む者は、単に技術のシーズだけに捉われ、技術至上主義に陥ってはならいと、警鐘をならしている判決と受け止めた。

  ウイニーのような社会のインフラとなる技術を世に出す場合は、どのような手法で開発すべきか、法律家からの適切で実践的なアトバイスが望まれる。そして、法律面からそれに答えられる法律の専門家が必要とされているのだろうと思う。

http://www.ofours.com/bentenkozo/

五 控訴審判決

1 平成21年10月8日大阪高裁は、無罪判決をした。

2 判決理由の詳細は入手し得ていないが、「中立性の理論」を採用して無罪判決をしたようである。

3 2記載のとおりであったとしたら、私が言う「プラス アルファ行為」がなかった事件、認定できなかった事件ということとなる。

 そして、下記大阪高裁の判決要旨記載の論理、「価値中立のソフトをネット上で提供することが正犯の実行行為を容易にさせるためにはソフトの提供者が違法行為をする人が出ることを認識しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為のみに使用させるように勧めて提供する場合には幇助犯が成立する」という論理は、私が試論として公表した

教唆的幇助意思の理論に通じるものがある。

4 控訴審判決報道-その1

 一審判決では、Winnyは価値中立なソフトだと認めた上で、価値中立なソフトの開発・公開が著作権侵害の幇助に問われるかどうかについては、慎重な判断が必要だと指摘。判断基準として、1)実際のソフトウェアの利用状況、

 2)それに対する開発者の認識、3)開発者の主観的対応――の3点を示し、金子氏はWinnyが違法に使われていることを知った上で開発・公開を行っていたとして、金子氏に罰金刑を言い渡していた。

 一方、控訴審判決では、ソフト提供者が著作権侵害の幇助と認められるためには、利用状況を認識しているだけでは条件として足りず、ソフトを違法行為の用途のみ、または主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供している必要があると説明。金子氏はこの条件に該当しないとして、一審判決を破棄し、無罪を言い渡した。

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091008_320251.html?ref=hl_rss

5 控訴審判決報道-その2

小倉正三裁判長は「著作権侵害を主な用途として勧めウィニーを提供したとは認められず、ソフトの公開はほう助に当たらない」との判断を示した。

 ファイル共有ソフトを使った著作権侵害をめぐり、開発者本人が刑事責任を問われた初のケース。さまざまな目的で利用できるソフトを公開したことが悪用による著作権侵害の手助けに当たるかどうかが争点だった。

 金子被告は一貫して無罪を主張し「技術開発の現場を萎縮させる」と一審判決を批判。高裁の判断が注目されていた。

 小倉裁判長は判決理由で、まず著作権侵害ほう助罪の成立について「提供したソフトの主な用途が著作権侵害だと容認した上で提供しなければほう助に当たらない」と判断した。

 さらに「ウィニーそのものは価値中立のソフト」と認めた上で「金子被告は公開時に著作権侵害をする人が出る可能性を認識、容認していたが、違法ファイル交換をしないよう注意喚起もしていた」と指摘。違法行為を積極的に勧めて提供したものではない、と認め、ほう助罪の成立を否定した。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/dogai/193240.html

6 控訴審判決論評-その1

Winny事件二審判決

 だいぶ遅くなったがWinny事件二審判決について。すでに報道されている通り、一審の有罪判決を覆して無罪、検察はそれを不服として上告する方向になったと、そういうことであった。問題は一審と二審のあいだで何が代わったかと言うことだと思うのだが、報道から見る限り実はあまり変わってないなというのが私の印象である。

 もともとこの事件の論点は、法律的に見る限り概括的故意による幇助犯の成立を認めるかどうかということであった。つまり、「いつか・誰かが犯罪に利用するだろう」という予期と・「それでも構わない」という認容があることを刑事責任の基礎にしてよいかという問題である。というのは、幇助の対象である他人の著作物のアップロード行為が違法であることには疑いの余地がなく、それがそもそもよろしくないという(ヨーロッパにおける海賊党のような)主張は、本件で有罪判決を出すことがソフトウェア開発を萎縮させるかどうかといったような政策的衡量の問題と並んで立法府に持ち出されるべきものであり、刑事裁判という法の適用の局面に持ってこられても困るからだ。

 さて、その上でこの「概括的故意」という概念について言えば、少なくとも直観的には、無制限に認めるわけにもいかなければ完全に排除するわけにもいかないというところがある。つまりたとえば包丁について、それを製造販売することが(少なくとも包丁の存在しない世界に比べれば)殺人行為を容易にすることは客観的に明らかであろう。まともな感覚の持ち主であれば包丁を製造販売することによって「いつか・誰かが犯罪に利用するだろう」とは予想するだろうし、かといって包丁なしで料理することも人々の幸福を大きく損ねるであろうから「それでもやむを得ない」という程度には結果を認容するだろう。でまあ案の定包丁で人を殺したり脅したりする人間が出るわけであるが、だからといって確かに客観的にはその当人の犯行を用意ならしめたところの包丁の製造販売者を幇助犯に問うというのは、なにやらマズい気配がするわけである。

 他方、では「概括的故意」を完全に認めなければどうなるかというと、まあ基本的には犯罪行為以外に用途が思いつかないところの小型拳銃を「いつか誰かが使うだろう」という期待を込めつつ貧民街の公園の公衆トイレに「置き忘れて」みるというような行為が処罰できないことになり、これもなにやらテロリストに極めて便利そうでヤバい香りの漂う社会像である。あるいは、「このボタンを押すと先端からポロニウム内蔵の針が飛び出して刺さった人がしおしおのぷーなので決してやってはいけません」とわざわざ丁寧に警告をくくりつけた旧KG**Deleted for Security Reasons**謹製の傘を都内各所に置き忘れてみるとかはどうだろうか。このような場合、たとえ現実の行為者や行為態様・行為時期に関する認識がないとしても、幇助に対する故意を認めないといかんのではないかと、そういう気がするわけである。

 そうなると結局問題は、両者のあいだにどのような境界線を引くかということになろう。そしてこのような意味での法的論点については、実のところ一審・二審判決のあいだにそう違いはないのではないかと、そういうことがいいたかったのであった。

 つまり二審判決のロジックは、製品自体が価値中立的なものであり、従ってそれを利用者が違法な用途に使用することが製品自体からは明確に予測できない場合には、製造者において違法な用途に用いることを勧奨したり煽ったりしたというような事情がない場合には概括的故意の成立を認めるべきでないというものである。逆に言えば、製品自体から違法に用いられることが強く推測できる場合にはどうなのか(たとえば流通したものがピストルであったら?)という点を、明確に判断しているわけではない。

 一方一審判決は、Winnyが違法な用途に用いられることを開発者自身が強く認識し、さらには期待してさえいたという判断に立ったものである。既存の著作権法秩序(それは国会を通じて民主的に制定されたという点において、一応の(prima facie)正当性を有するものであるが)を破壊するために作られた道具であるならばそれは価値中立的とは言えないことになる。二審とは逆にこちらは、価値中立的な製品の製造に関する責任問題を明確に判断したわけではない。

 つまり両判決は、(1) 製品自体が価値中立的な場合、概括的故意を認定するためには「勧奨・煽り」などの追加的な行為が必要であるが、(2) 製品自体から違法な用途に用いられることが強く推測される場合にはそれ自体で概括的故意を認めるに足り、ことさら「勧奨・煽り」などの具体的行為を必要としない、とまとめることもできそうだ、という気がするわけである。この場合、一審と二審の判断が分かれた理由は主に、Winnyという製品が価値中立的なのかどうかという事実認定の問題に還元されることになるわけだ。

 さて、仮に上記のような分析が成り立つとしての話だが、その上で私の印象をいえば二審の事実認定には大きな疑問があると言わざるを得ない。Winnyが語法的にも違法的にも使い得るというところまではその通りだが、ではその合法的な使用なるものが現実的にどの程度存在するというのか。そもそも合法的に使用することを中心的に想定していたとするなら、Winnyの持つ匿名化・暗号化のための性質は必要であったのか。さらに開発・流通過程においてその主体を隠蔽し、責任追求を困難にする必要があったのか。これらの要素を考えれば、「47氏」の発言などに依拠するまでもなく、本人がどれだけ言いつくろおうともそれが違法な行為を勧奨し・煽るために作られたものだと言った方が素直な事実認定ではないかと、そういう気がするわけである。

 まあいずれにせよこの事件自体は最高裁でもう一度判断されることになるだろうからその結果を待てばよいとして、もう一つ思うのは、「金子氏」が問題を価値中立的なソフトウェア開発によって生じる責任をめぐるものと位置付けることによって、結局「47氏」が(日本版)海賊党の党首になる道は閉ざされたのだなと、そういうことである。ネットの「47氏」としては既存の秩序の破壊を声高に主張しながら「金子氏」になるとその姿を自ら否定してみせるというあたり、なにやら現在の日本に似合いの事件だったのかなと、そう思わなくもない。

http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000658.html

7 控訴審判決論評-その21

 Winny裁判の二審判決では、一審判決を覆して無罪となった。Winnyは価値中立的なソフトウェアであり、開発し配布した金子氏には刑事的責任はないというものである。

 もちろん、ソフトウェアは価値中立なものであることについては論を待たない。

 しかし、今回の事件は、Winnyが価値中立的なソフトウェアかどうかではなく、Winnyが価値中立的なものとして開発され、配布されたものかどうかが問題となっていたと思う。

 この視点からすれば、わたしは、今回の高裁判決が、五右衛門さんの言葉を借りれば、「プラスアルファ」の側面から事実認定されたのかどうか、はなはだ疑問に思っている。

 私の疑問(心象)は、おおやにさんのブログに端的に語られていたので、紹介いておく。

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 「金子氏」が問題を価値中立的なソフトウェア開発によって生じる責任をめぐるものと位置付けることによって、結局「47氏」が(日本版)海賊党の党首になる道は閉ざされたのだなと、そういうことである。ネットの「47氏」としては既存の秩序の破壊を声高に主張しながら「金子氏」になるとその姿を自ら否定してみせるというあたり、・・・

 金森喜正氏のILCへの投稿より

8 控訴審判決の要旨

(1)ウィニーの機能

 被告が開発したウィニーは、各コンピューターが保存している情報をインターネット利用者らが相互に直接共有できるようにしたファイル共有ソフトであり、利用者らは既存のセンターサーバーに依存することなく情報交換することができる。

 その匿名性機能は、通信の秘密を守る技術として必要で、ダウンロード枠増加機能などもファイルの検索や転送の効率化を図り、ネットワークへの負荷を低減させるもので、違法視されるべき技術ではない。

 したがってファイル共有機能は、匿名性と送受信の効率化などを図る技術の中核であり、著作権侵害を助長するように設計されたものではない。ウィニーは多様な情報交換を通信の秘密を保持しつつ、効率的に可能にする有用性があるとともに、著作権の侵害にも用い得るという価値中立のソフトである。

(2)幇助犯の成立

 ネット上のソフト提供で成立する幇助犯はこれまでにない新しい類型で、刑事罰を科するには慎重な検討を要する。

 1審判決はウィニーは価値中立的な技術であると認定した上で、ホームページ上に公開し不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められるとして、幇助犯が成立するとした。

 しかし、平成14年5月に最初に公開されてから何度も改良を重ね、どのバージョンの提供から幇助犯が成立するのか判然としない。

 ウィニーの利用状況を把握することも困難で、どの程度の割合の利用状況によって幇助犯の成立に至るかは判然としない。

 したがって1審判決の基準は相当でない。

 被告は誰がウィニーをダウンロードしたか把握できず、その人が著作権法違反の行為をしようとしているかどうかも分からない。
価値中立のソフトをネット上で提供することが正犯の実行行為を容易にさせるためにはソフトの提供者が違法行為をする人が出ることを認識しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為のみに使用させるように勧めて提供する場合には幇助犯が成立する。

 被告はウィニーをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性を認識し、「これらのソフトにより違法なファイルをやりとりしないようお願いします」と著作権侵害をしないよう注意喚起している。

 被告は価値中立のソフトであるウィニーをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性は認識していたが、著作権侵害の用途のみに使用するためネット上で勧めて提供したとは認められず、幇助犯の成立は認められない。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/310549/

六 大阪高検、上告

ウィニー開発者・逆転無罪で大阪高検が上告

 大阪高検は21日、ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を開発、インターネットで公開し、著作権法違反(公衆送信権の侵害)のほう助罪に問われた元東京大大学院助手・金子勇被告(39)を逆転無罪とした2審・大阪高裁判決を不服として、最高裁に上告した。

 同高検は「判決には承服しがたく、上告審で適正な判決を求める」としている。

 金子被告は「上告は残念だが、最高裁でも無罪を勝ち取り、技術者の開発の支障とならないようにしたい」との談話を発表した。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091021-OYT1T00697.htm

 

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