IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

不正アクセス条項と法益

一 問題の所在

 不正アクセス禁止法に定める不正アクセス禁止条項の「法益は、何なのか」、議論のあるところである。

 そして、不正アクセス禁止法は、その「法益」を保護するために「利用制御」という「IT技術の効果」を保護するという方法を採用した。

 この不正アクセス禁止法が想定した「法益」と現実に不正アクセス禁止法の条項により直接的に保護しようとした「IT技術の効果」である「利用制御」との間に、齟齬はないのか。
ここに不正アクセス禁止法が抱える問題がある。

二 不正アクセス行為の法益について

1 不正アクセス禁止法の法益は一体何なのか。議論はされているようではあるが、分かりづらい。石井意義と限界15頁以下に、この点についての論説があるが、これも正直なところ、分かりづらい。

 分かりづらい理由については、もとより読む人間の能力不足もあるだろう。しかし、誤解を恐れず言えば、「分かりづらい論説」は、それ自体、曖昧ないし類似の理論的欠陥があると言い切ってよいと思う。

2 立法担当者は、不正アクセス行為の禁止と処罰理由について、「不正アクセス行為は、アクセス制御機能による利用権者等の識別符号に対する社会的信頼を害することにより、コンピューターネットワークにおけるハイテク犯罪の抑止力を失わせてこれを助長するおそれを生じさせるとともに、ネットワークを無秩序な状態にし、安心してネットワークを利用できない事態を招いてネットワーク相互の接続を抑制し、ひいては高度情報通信社会の健全な発展を阻害する危険性を有するものである」(逐条不正アクセス法66頁)と指摘する。

 言葉を変えれば、立法担当者の把握する法益とは、「識別符号によるアクセス制御機能に対する社会的信頼」と理解しているものと言ってよい。

3 前記石井意義と限界によれば、「立法担当者は、高度情報化社会における情報通信の安全性を確保するためには、アクセス制御機能に対する信頼が不可欠と理解しているようであるが、ここに論理の飛躍がある」と指摘する。また「アクセス制御機能に対する社会的な信頼それ自体が保護法益として適切なものか」という疑問も提起する。

 結論として、石井意義と限界は「保護法益として処罰の実質は、情報セキュリテイ、とりわけネットワークにおける情報処理に関するセキュリテイにあると見るのが適切である」(前掲25頁)、「アクセス制御機能の侵害を実質的な違法とする個人的法益に対する罪」と考えるべきであるとし(前掲27頁)、「不正アクセス罪の保護法益をデータセキュリティに求め・・・・不正アクセス行為は、他人の識別符号を使用して特定利用をしうる状態にする場合及びネットワークに接続されたサーバー等コンピューターに内在する脆弱性をついて本来は有していないデータへのアクセス権限を奪うことにより特定利用しうる状態にさせた場合をいう」とする。

4 しかし、この石井意義と限界の論説は、「保護すべきものの実質を情報セキュリティと把握する」がために、明らかに法解釈論を逸脱している。

 前記のとおり、不正アクセス禁止法は、その「何か」を保護するために「利用制御」という「IT技術の効果」を保護するという方法を採用しているのである。立法論として適切か否かは別にして、法律はこのような態様、条項を採用しているのであり、法解釈として、特に刑罰法規の解釈においては、法律の条項に素直でなければならないことは罪刑法定主義の見地から当然であるべきである。

 石井意義と限界36頁が、自ら仮定論述しているとおり、「このような解釈は本法律の文言に著しく反するもの」であり法解釈論ではない。いわば立法論である。

 立法論を述べるのはいいことでもある。しかし、解釈の名の下に、法律の文言と著しくかけ離れた解釈論を展開して、立法担当者の思惑に迎合するような態度、短絡的に「コンピューターに内在する脆弱性をついて本来は有していないデータへのアクセス権限を奪うことにより特定利用しうる状態にさせた場合も不正アクセス行為に該当する」というような論理は、慎むべきであろう。

 

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