IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

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情報の秘匿と保護

2 情報の秘匿と保護

 このコンピューターセキュリティ問題を考えるについて、ひとつ参考になると思われることを付記しておく。

イ 「セキュリティ」という言葉で表現されるものの実体は、アナログ的に理解すれば

--知られたくない情報を知られないようにする

--触られたくないシステムないしプログラム部分への侵入を阻止する

 いったことで概括表現できるのではないかと思われる。

ロ 上記の「知られたくない情報」の秘匿という問題

 既に、説明ないし述べたとおり、現在、刑罰法規により「情報を保護する」という法律はないのである。「情報窃盗」という類型の犯罪は定められていないのである。

 このように「情報の窃盗」という犯罪類型が定められていない以上、「知られたくない情報」の秘匿は、自らのセキュリティ施策と能力の向上により、維持、保全する他ないのである。
努々、このような「知られたくない情報の秘匿」という問題を不正アクセス禁止法に頼るというようなことは許されないのである。それはIT技術者として失格の烙印を受けることを意味するのである。

ハ そして、上記の「触られたくないシステムないしプログラム部分への侵入を阻止する」という問題

 コンピューターをインターネットの世界に接続するということは、時空を越えて、他の人が、そのコンピューターに接触するということなのである。時空を越えて、他の人が、そのコンピューターに接触することを認めるということなのである。

 コンピューター時代を迎えて、電磁的記録保護の罪などの新設が検討されたとき、「権限なく、他人のコンピューターを使用することを禁ずる犯罪類型の新設」の当否も議論されたものの、新設は見送られた経緯があるのである。それは、次のような理由からと言われている。

 

コンピュータの無権限使用の問題

 「刑法が、財物の占有移転や人に対する加害を伴わない無権限使用自体を処罰の対象としていないことから、コンピュータ以外の機器、システムの取扱いとの均衡を考慮するとともに、どのような観点から処罰の根拠、違法性の実質をとらえるべきかについて、今後なお諸般の角度から検討を要する事柄である」(多谷千香子ほか「刑法等の一部を改正する法律について」法曹時報39巻12号)。

 上記のような無権限使用を禁止することについて検討すべき課題もあるだろう。しかし、このような理由以外にも、もっとインターネットに本質的な問題があるように思われるのである。なぜなら、インターネットの世界におけるファイル交換等は、いずれも大なり小なり、他のコンピューターとの接触なくしてあり得ないからなのである。インターネットの世界は、時空を越えて、他のコンピューターを動かすことにその本質的な特徴があるのである。その接触の仕方は、もちろん通信プロトコル等に従うものの、自らの動きに応じて他のコンビューターが反応するインタラクティブ(双方向性)こそがインターネットの本質であると考えられるからなのである。

 無権限使用と簡単に表現することですまされない問題があるのである。

 他の人に触られたくない、侵入されたくないという部分があるのなら、前記したような客観的に認められるような形での利用制御をして不正アクセス禁止法などの刑罰法規の助力を受けるか、そのような選択ができないのなら、自らのセキュリティの向上により、その侵入を阻止するしかないのである。

図12

 

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