IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

はじめに(第二編)

第二編 デジタル証拠論

一 はじめに

1 現在のアナログ訴訟においても、相当以前から、デジタル証拠と表現すべきものの証拠利用が行われている。

 一例を挙げれば、「メール通信の記録」などである。

 特定の人間同士の間で送受信された「メールの内容」が訴訟において証拠としての価値が認められる場合がある。民事訴訟においても、刑事訴訟においてもである。

 しかし、このような例えば携帯電話に保管されている送受信されたメールをアナログ世界に持ち出すためには、送受信の内容、当事者、送信日時等の印刷が必要となる。このようにアナログ世界に、この送受信されたメールを顕現させるためには、携帯電話に保管されているデジタルデーターを取り出し、コンピューター等に取り込んで印刷する必要がある。このようにデジタルデーター自体の取り出しをしなければ、メール自体に記録されていた送信日時等のへッダー記録が印刷できないからである。このような作業ために、専用のソフトウェアを購入使用することとなるのである。

 このようにデジタル証拠をアナログ世界に顕現させるために、その作業に必要なソフトウェアの使用が必要となってくる。

2 1記載のように、アナログ世界に顕現させるためにデジタルデーターを取り出したとして、既存の証拠論に即して考えれば、一体、証拠の原本というべき、原本としてのデジタルデーターはどれになるのか。

 取り出したデジタルデーターは、原本データとは言えないのか。このような原本性の問題が起きてくる。

3 さらに、どのような要件がそろえば、証拠として使用することが認められるのかなどの証拠能力の要件等の検討、そして証拠調べの方法、さらに証拠調べに対する異議申し立ての方法等デジタル証拠であることにより、検討すべき課題がある。

4 さらに、デジタル証拠と言うべきものの出現により、従来の証拠論の再検討が余儀なくされてくる。

 一例として、例えば写真である。従来、銀版写真を前提として、写真は非供述証拠というのが多数の考え方である。

 しかし、デジタル写真の登場により、写真を非供述証拠と把握してきた前提が崩れてきている。デジタル社会においても、写真を非供述証拠と把握するのが正当なのか否か。検討すべき事項がある。

 デジタル社会の到来は、従来のアナログ証拠論の根底を覆す可能性があるのである。

5 デジタル証拠論というものを意識して検討しなければならない。

 

二 デジタル証拠論における問題点

1 原本性の消失

 サイバースペースにおいては、「オリジナルとコピーの差異の消滅」という特色がある。

 従来のアナログ法廷においては、立証は原本たる証拠により立証するのが原則とされ、原本ではなく写しで立証する場合には、「写しと同内容の原本の存在」を立証して初めて、証拠としての利用、証拠価値が認められてきた。

 しかし、デジタル犯罪において、原本と写しの差違は消失した。

 デジタル証拠の「証拠としての要件」が検討されなければならない。

 電子署名の制度はその機能を発揮するのか。

2 改変性と正真性

 デジタル証拠において、「原本と写しの差違が消失した」ということは、証拠の改変が、改変の証拠なくして容易に可能となったことを意味する。

 このような痕跡なき改変可能なデジタル証拠の「証拠価値をどう評価する」のか。

 「改変なきことの証明手段の開発」はどうか。

 サイバー公証役場を創設し、電子刻印、電子日付の制度の創設か。

 また、サイバー公証役場を創設し、デジタル文書の保存と正真性の証明機能と役割を求めるか。

3 保存性

 デジタル証拠は劣化しないとも言われる。しかし、記録媒体は劣化する。記録媒体や記録方法の技術は進歩する。

 どのようにして保存するのか。

 これは写しの作成作業ではない。原本そのものの再現の作成と保存という問題である。

 誰が、どのような方法で行うのか。

4 多くの未知の問題がある。

 

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