IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

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  目  次

インターネット特有の犯罪

2 インターネット特有の犯罪

(ファイル交換)

  これらに反して、インターネット特有とも言えるかもしれない犯罪がある。それは、IT独特の構造と、それに対する無理解に基づく犯罪という特殊な面が認められるのである。

 インターネットの世界というのは

 -ファイル交換、ファイルコピー、ファイル送信の世界--複製の世界であるということ

  -この構造を理解しないと、著作権法違反などの犯罪を犯してしまうのである。


図6

  インターネット犯罪にかかる行為は、「ファイルの送受信」という行為を介在して行われるということに注視する必要がある。

(データーの豹変)

  また、デジタルデーター自体は、ある意味(PCなどを介さない場合)、無色なものとも言える。

  しかし、この、ある意味無色とも言えるデジタルデーターが、PCやPCプログラムを介することにより、場合により「わいせつ物」となり、場合により「他人の著作物のコピー」へと豹変していくのである。

  従って、デジタルデーターを、社会的、規範的に、どう見るかということは、

  イ 無色なデジタルデーターを、豹変させる道具の評価

  ロ 豹変したものの評価

  ハ デジタルデーターとそれを豹変させる道具との結びつきの契機と評価

  を総合して評価、決定することとなる。

 従来、デジタルデーターではないものの法的評価とこれらある意味特殊なデジタルデーターへの法的評価を巡って、裁判所において、論争されてきているが、上記のようなデジタル犯罪行為の特殊性への基本的な見方ないし評価を検討せずして議論しても、議論は平行線に終わるだけであり、IT社会に合致した法理論の構築ができないのみならず、安易な、罪刑法定主義を軽視した議論もなされる危険性がある。

  罪刑法定主義の要請とIT社会に合致した法理論の構築を目指すべきである。


図7

(公然性の具備)

  インターネットの世界における行為、掲示板への投稿やMLへの投稿は、インターネット外の既存の世界における行為にはない特別の属性を具備するということを理解しておく必要がある。

  それは、インターネットの世界における掲示板への投稿やMLへの投稿は、不特定又は多数の人に向けられる行為であるということです。「不特定街は多数の人に対する」行為は、法律の上では「公然」という要件に該当することとなる。

(名誉毀損)

刑法230条

  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

2  死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(侮辱)

刑法231条

  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 私たちが、井戸端会議、また居酒屋で友人、知人らとの会話のなかで、通常するような会話も、インターネットの世界における掲示板への投稿やMLへの投稿という形で行われると、それは「不特定又は多数の人」に対して行ったもの、「公然」と行ったものとして、その内容が他人の名誉を毀損したり、他人を侮辱するような内容であった場合、刑法の名誉毀損の罪や侮辱の罪に該当することとなるのである。

  このことに気づかず、名誉毀損の犯罪を犯してしまう人が結構多いのである。

  この点を注意する必要がある。

 

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