« 付記-書面・文書・電磁的記録等の意味 | メイン | 中立行為に関する「教唆的幇助意思の理論」 »

後注

 本文の理解を容易にするための一般的なIT知識、法律知識を付記する。

目次
1 プログラム言語の段階的構造
2 スクリプト
3 不正競争防止法(情報窃盗、保護関連)
4 不真正不作為犯 (P2P関連)

1 プログラム言語の段階的構造



                      図17



 (上記の図は、ITの素人であり、アナログ人間である著者の概括的な理解を、わかりやすく表現したものであり、ITの専門家から見れば不正確なものであることを、ご了解頂きたい。)

(本書監修者である金森喜正氏の補足説明 )

プログラム言語の解釈実行には大きく二種類の方法がある。
イ 機械語に翻訳して実行する方法
 人が判読できる言語で書かれたプログラムを直接機械語にして実行させる方法である。
 機械語にすることをコンパイルと言うが、この際に、プログラムを実行する際に必要となる環境設定や数学関数といった部分は、あらかじめ機械語を用意して置いて、コンパイルしたものに付けるといったことをする。
 コンパイル時には、翻訳するプログラムを中間語と言った内部的な言語に落としながら機械語にしていくが、これはあくまでコンパイラの内部処理でのことであるから、コンパイラはプログラムを直接機械語に翻訳するものと言える。

ロ 翻訳しながら逐次実行する方法
 人が判読できる言語を機械語に翻訳してから実行させるのではなく、プログラムを解釈すると同時に、インタプリタが実行していく方法である。
 人が分かる言葉で記述されているプログラムをインタプリットするプログラムが動いていて、書かれているプログラムを一文づつ解釈しながら実行していくといったもので、コンパイラのように、プログラムを機械語には落とさない。内部的な中間語にした後、実行するのが一般的である。
 BASIC などがこの方法でプログラムを実行する。また、 CGI などはスクリプトと呼ばれているが、それらもこの方法で実行されている。

2 スクリプト=スクリプト言語によって記述された処理手順(事典516頁)
  スクリプト言語=処理手順を記述するための簡易言語(事典517頁)

3 不正競争防止法

 不正競争目的の情報の不正取得、不正利用等を処罰する。

不正競争防止法
(定義)
第2条
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一  省略
二  省略
三  省略
四  窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
五  その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
六  その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
七  営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
八  その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
九  その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
十  営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
十一  他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
十二  不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為
十三  省略
十四  省略
十五  省略
2  省略
3  省略
4  この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
5  この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
6  この法律において「プログラム」とは、電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。
7  この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割 り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。
8  この法律にいう「物」には、プログラムを含むものとする。

第14条
 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一  不正の目的をもって第2条第一項第一号又は第十三号に掲げる不正競争を行った者
二  商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量又はその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような虚偽の表示をした者(前号に掲げる者を除く。)
三  詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下同じ。)により、又は管理侵害行為(営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体(以下「営業秘密記録媒体等」という。)の窃取、営業秘密が管理されている施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第三条 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下同じ。)により取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用し、又は開示した者
四  前号の使用又は開示の用に供する目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為により、営業秘密を次のいずれかに掲げる方法で取得した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を取得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
五  営業秘密を保有者から示された者であって、不正の競争の目的で、詐欺等行為若しくは管理侵害行為により、又は横領その他の営業秘密記録媒体等の管理に係る任務に背く行為により、次のいずれかに掲げる方法で営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体を領得し、又は作成して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を領得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
六  営業秘密を保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する無限責任社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。)又は従業者であって、不正の競争の目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
七  第9条、第10条又は第11条第一項の規定に違反した者
2  省略

4 不真正不作為犯

 作為の形式で規定された通常の構成要件が不作為によって実現される場合を不真正不作為犯と呼ぶ。この場合は、例えば殺人罪の場合であれば、「殺すな」という禁止に反して不作為で構成要件を実現するので、禁止規範違反とされ。例えば、母親がミルクを与えないことによって乳児を死なせるような場合が典型例である。(前田刑法総論129頁)

 真正の不作為犯は、国民に一定の「作為」を要求する代わりに、法定刑の相対的に軽い犯罪類型とすることが望ましい。ところが、不真正不作為犯は、作為犯と同じ重さの刑で処罰される。そこで、当該犯罪を作為で犯した場合と同程度の可罰性が要求されることとなる(作為との等価値性)。さらに、そもそも、当該犯罪実行行為に不作為の態様のものが含まれ得るのかが吟味されなければならない。
 ここで、不真正不作為犯は実際上は限られた犯罪類型についてしか問題にならないことを認識する必要がある。まさに、例外的存在であり、その点は、限られた法益についてのみ規定されている過失犯にも類似する。
 このような不作為犯の課題は、1 積極的な作為と同程度に当罰性の高い不作為の事案をカバーしつつ、2 処罰範囲の限界の設定を容易にする基準を示すことにあるといってよい。それは、刑法総論の議論の中では主として実行行為の問題と考えてよい。「しなかった」というだけで、犯罪を実行したと評価できるのはどこまでかという論点なのである。(前田刑法総論130頁)

 なお、新聞報道などによれば、Winny事件について、検察官は上記のような不真正不作為犯として公訴の提起をしたものではないようである。従って、一部の「WinnyというP2Pソフトを開発、公開しただけで、犯罪となるのはおかしい」という議論は、正確な法律上の議論ではない。なぜなら、「WinnyというP2Pソフトを開発、公開しただけで、犯罪となる」という議論は「Winny事件について不真正不作為犯としての公訴提起がなされたこと」を前提とした議論であるからである。
 このような論調は問題の本質を錯乱させる不当な論調である。

投稿者 goemon : 2005年1月21日 07:37

« 付記-書面・文書・電磁的記録等の意味 | メイン | 中立行為に関する「教唆的幇助意思の理論」 »

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.ofours.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/253