IT技術者のためのデジタル犯罪論  弁護士 五右衛門(大阪弁護士会所属 服部廣志)

  目  次

IT技術悪用者と犯罪

一 IT技術悪用者による犯罪幇助

1 デジタル犯罪においては、IT技術悪用者による犯罪幇助ということが問題となる。

 なぜなら、犯罪目的のためのプログラム、例えばサイト訪問者を欺罔するような方法で、アダルトサイトの入り口をクリックした瞬間に、「IPアドレス等を表示」して、あたかもサイト訪問者の個人識別情報を把握したかのような誤解を与え、「入会登録ありがとうございます。入会金を下記口座に振り込み送金して下さい」というようなサイト訪問者が予期しない内容の案内や指示を表示するCGIなどは、明らかに詐欺ないし強要の罪を犯す目的で制作されているものであり、このような使用目的を認識、認容しながら、CGIを制作、提供したIT技術者は、詐欺ないし強要の罪の幇助と評価できるからである。

2 上記のような犯罪の幇助と評価し得るプログラムに該当するのではないかとの疑念のあるものは結構多いのではないかと思われる。

イ 1記載のようなCGIプログラム

ロ サイト訪問者を欺罔して国際電話をかけさせるようなプログラム

ハ 電話における発信者情報偽装プログラム

など。

3 デジタル犯罪の陰に、犯罪を幇助するIT技術悪用者の存在がある。

 もちろん、犯罪に利用できるプログラムを制作したというだけで犯罪幇助と評価するのは不当であることはいうまでもないところであり、犯罪幇助の意思、幇助の故意の認定には慎重にすべきであるが、捜査機関は、犯罪幇助の目的で制作されたことが明らかとなったプログラムについては、このような犯罪幇助行為を行ったIT技術悪用者の摘発にも考慮すべきである。
プログラム制作は犯罪の治外法権でもなんでもないからである。

ワンクリック詐欺、ソフト開発業者を初の逮捕

 アダルトサイトの画面を一度クリックしただけで入会の契約をしたと思わせる「ワンクリックサイト」を利用し、金をだまし取ったとして、京都府警ハイテク犯罪対策室などは平成17年7月6日、サイトのソフトを開発した高松市のコンピューターソフト開発会社経営ら2人を詐欺容疑で逮捕した。

 サイトを運営した岡山県倉敷市の会社社長ら6人(風営法違反容疑で逮捕)も詐欺容疑で再逮捕する方針。府警によると、「ワンクリサイト」のソフト開発業者を逮捕するのは全国で初めて。

 調べによると、容疑者らは共謀し、今年2月、サイトにつないだ滋賀県野洲市の会社員(40)ら4人が「利用規約に同意する」をクリックしただけで会員登録が完了したとする虚偽の画面を表示させ、利用料金計17万5000円をだまし取った疑い。

 某容疑者はソフトを1組約25―50万円で某容疑者に計11組販売。某容疑者らは1日に数万通のメールを不特定多数に送信し、昨年秋以降、30都道府県の約1000人から計約5000万円を振り込ませていたという。

(読売新聞) - 7月6日14時54分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050706-00000306-yom-soci

(強要)

刑法223条

生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。

(詐欺)

刑法246条

 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

(恐喝)

刑法249条

 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

(幇助)

刑法62条

正犯を幇助した者は、従犯とする。

2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

(従犯減軽)

刑法63条

従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

 このような犯罪利用目的のプログラムを制作、提供するIT技術悪用者の人に自覚して欲しい。そのプログラムによる犯罪金額は膨大な金額になり得ることを。そして、刑事責任のみならず、その膨大な犯罪被害の全額について、損害賠償の責任を負うことになることを。

民法719条

 数人カ共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ各自連帯ニテ其賠償ノ責ニ任ス  共同行為者中ノ孰レカ其損害ヲ加ヘタルカヲ知ルコト能ハサルトキ亦同シ 2 教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス

4 ファイル交換ソフト個人ユーザーがレコード会社に賠償金

<ファイル交換ソフト>個人ユーザーがレコード会社に賠償金

 日本レコード協会は6日、ファイル交換ソフトを利用して著作権を侵害して不正に楽曲をアップロードしていたユーザー5人と損害賠償金の支払いで和解したと発表した。国内で個人ユーザーが賠償金を払うのは初めて。各ユーザーからは反省と謝罪の言葉が述べられ、2度と権利侵害をしないことを約束する誓約書が出された。(毎日新聞) - 7月6日20時28分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050706-00000115-mai-soci

5 Winny事件

Winny事件においては、刑事公判において捜査官は 「このときは被告人を被疑者にしようという考えは毛頭なかった。プログラム開発者と犯行は全く別で、プログラマーは悪くない、使った者が悪いと思っていた」。ところが、被告人は、捜査官らが想像もしなかったこと、「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権のあり方を変えるのがWinny開発の目的だった」 と語り始めたと証言している。

 もちろん、弁護側は、これを否認し、「著作権侵害蔓延目的というのは捜査官の作文である」と反論している。

 Winny事件の争点のひとつが見えてきている。

 法注書き-犯罪が成立するためには、客観的な行為とそれに対応する主観的な故意(又は過失)が必要とされている。上記は、この犯罪が成立するためのふたつの要件のうちの後者、主観的な故意(犯罪幇助の故意)の問題である。仮に主観的な犯罪幇助の故意が認められたとしても、それに対応する客観的な行為の存在が必要である。

 客観的な行為の存在+主観的な故意(又は過失)の存在=犯罪の成立

 仮にWinny事件のような場合、イ記載の主観的な要件が具備していたとして、どのような行為があれば犯罪が成立するのか。

 犯罪が成立するための行為については、刑法の世界では構成要件に該当する必要がある。構成要件とは、刑法が定めている一般的には違法な行為、してはいけない行為の類型、違法行為の類型であることから、Winny事件のような場合には、一般的に、「著作権侵害の結果を招来するような、著作権侵害行為を助けるものと評価できる、結果の発生に対する法的な相当因果関係力を持つ行為」に該当する必要がある。

 従って、「著作権侵害を助けることができる」というような「著作権侵害行為」と-単に条件関係にある-に過ぎない行為では該当しないという評価をしなければならない。

 「P2Pプログラムの作成とその公開、配布」という行為は、上記の-結果に対する条件関係は認められるとしても、法的な相当因果関係力を持たないもの-として、それのみでは「著作権侵害行為の幇助行為」には該当しないと言うべきである。
Winny事件のような場合には、単なる「P2Pプログラムの作成とその公開、配布」という行為を越える「+アルファ行為」の存在がなければ、「著作権侵害行為の幇助行為」には該当しないと言うべきである。

 Winnyに限らず、各種の先駆的プログラムやソフトはIT技術の進化、発展のなかで制作され、それらはIT技術の進歩、IT社会の発展に貢献する可能性を持っているものであることから、前記のようなプログラム自体が犯罪の幇助を目的としているものであることが明らかなものは別にして、各種のソフトないしプログラムは、その中立性から、原則として、その制作ないし頒布行為のみでは、犯罪の幇助行為に該当しないということを構成要件理論として確立する必要がある。

「P2Pプログラムの作成とその公開、配布」
=中立的行為=法的因果関係力なし=幇助行為に該当せず 
+「アルファ行為」→法的因果関係力あり→幇助行為該当可能性

 Winny事件の場合には、上記「+アルファ行為」の存否と「法的因果関係力」の存否=違法類型該当性が問題となるのである。

 Winny事件の場合に、これを著作権侵害の幇助の罪に問うのは、「包丁メーカーを殺人幇助の罪に問うに等しい」というような立論は、構成要件が違法類型であり、その該当性の判断については、一定の結果発生への法的相当因果関係力を持つ行為に限られるべきであるという構成要件理論を否定するものであり、かつ別カテゴリーで記載したような不真正不作為犯の理論をも無視する不当な議論でもある。

 本稿の見解は、「いわゆる中立的行為」の構成要件該当性を否定する立論であり、中立的行為の議論は、上記のような因果関係力の問題、構成要件該当性の問題として把握、整理すべきであり、理論としては埋没させるべき議論である。

 また、本稿の見解は、構成要件の一要素である因果関係について、条件説ではなく、相当因果関係説を採用することを前提とした立論である。

 この因果関係について、判例はどの見解を採用しているのか、条件説を採用しているのか、議論のあるところであるが、相当因果関係説を採用しなければ、本稿のような問題の解決は困難であり、幇助行為の無限定性という問題を克服することは困難であると考えている。

法注書き

 条件説=結果に影響を与えたすべての条件を同等に評価し、すべてに因果関係を認める説

 相当因果関係説=一般人の社会生活上の経験に照らして、通常そのような行為からその結果が発生することが「相当」と認められる場合に、刑法上の因果関係を認める考え方。

(前田刑法総論177、179頁)

ニ 悪用IT技術の進化

1 ワンクリックウェア

 情報処理推進機構(IPA)セキュリティセンターの加賀谷伸一郎氏の話しによると、「ワンクリック詐欺やそれを助長するスパイウェア――ワンクリックウェアに関するものの相談が増えている」とのことである。同氏によれば、「ワンクリックウェアの典型的なパターンの1つは、クリックするとDOSプロンプトを模した画像を次々と表示させてユーザーを驚かせ、最後に「ご利用ありがとうございます。利用料金は××円です」と表示するもの。IPアドレス情報を表示させ「身元を割り出して請求にいきます」と脅すもの。また、動画ファイルを装ったワンクリックウェアで、実行するとデスクトップ上に「請求書」が作成されるものなど、いろいろなパターンがある」という。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060331-00000073-zdn_ep-sci

 実際にワンクリック詐欺を仕掛けたサイト運営者を相手取って訴訟を起こし、精神的苦痛に対する損害賠償を勝ち取った桜丘法律事務所の桜井光政弁護士は「スパイウェアについては、ものの本来の用法を損なわせるという意味で器物損壊に当たり、十分取り締まりの対象になる。また、これを用いてお金を詐取すれば、電算機使用詐欺罪に当たる」と述べているとのことである。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060331-00000073-zdn_ep-sci

 桜井光政弁護士の言われているという法的解釈(桜井弁護士の論考その他での直接確認はできていない)の当否は別にしても、今後も、このような悪用IT技術は進化していくのだろう。

ニ 法的解釈

 ワンクリックウェアがPC操作者の操作と相まって、操作者の意図しない動作をさせるとして、これのインストール行為が果たして刑法所定の器物損壊等の罪に該当するのだろうか。

(器物損壊等)

刑法261条

 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 このワンクリックウェアというものは(その詳細は知らないため、推論に過ぎないが)、PCの保有している機能を損壊するものではなく、単に、「PC操作者の操作と相まって、操作者の意図しない動作をさせる」に過ぎないものではなかろうか。仮にそのようなものであれば、「PCの効用を損壊させたとは言えない」のではないだろうか。

 もちろん、これが例えばPCのレジストリーを書き換えるなどして、PC操作者をしてPC本来の動作をさせないようにしたような場合には、「PCの効用を損壊させた」ものとして器物損壊等に罪に該当することになると考えられる。

(電子計算機使用詐欺)

 第二百四十六条の二  前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 また、電子計算機使用詐欺の罪の構成要件は上記のようなものであり、「不実の電磁的記録の作出やこれの利用による不法の利益の獲得」という犯罪類型であり、ワンクリックウェアによる場合には、この罪には該当しないと考えられる。

 

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